「鼓動」2010年4月21日
アリステア・マクラウドの「島」

その離島には、古い灯台と立派な埠頭があった。そのため初夏のロブスター漁の頃になると、島の海岸沿いに小屋が建てられ本島の漁師たちが集まってきた。
灯台守の夫婦には娘があった。漁師仲間とともに「彼」がやってきたのは娘が17歳の時だった。二人は結ばれ、婚約を約して別れたその冬、男が森で事故死したとの知らせがもたらされる。彼女は「彼」の子どもを身ごもっていた。が、父親が誰なのかをついに言わぬまま本島で娘を生むが、その子は伯母に引き取られた。老いた両親は立て続けに亡くなり、彼女はただ一人島の灯台を守りながら老いてゆく。歳月は過ぎゆき、灯台は閉鎖となることが告げられる。
翌年の春、島に突然「彼」と同じ髪の色をした若者がやってくる。そして彼女の孫と名乗り出る。彼女は遺伝子の奇跡でも見るように若者を見つめる。若者は、秋に迎えに来ると言い残して一旦去って行く。若者もまた「彼」と同じく戻ってこないのではという不安が募る中、若者は約束どおりやってくる。彼女は17歳の少女に戻って若者と島を出て行く。
死んだ恋人を胸に、荒々しい海に閉ざされた島にひとり暮らす女。女が孤絶した世界から救い出される展開は、まるで神話のようにすら思える。(IK)