「鼓動」2010年4月25日
フランク・オコナー作「マイケルの妻」
アイルランド出身の作家フランク・オコナーの名前が日本で注目されるようになったのは、2006年に村上春樹が「フランク・オコナー国際短編賞」を受賞してからだろう。「アイルランドのチェーホフ」と呼ばれたオコナーは、欧米では短編の名手として知られる。岩波文庫には2008年『フランク・オコナー短篇集』が収められている。
11篇の短篇に登場するのは、いずれも普通の人々だ。風景の描写もアイルランドの美しい風土を情感豊かに表現している。人と風土が混然一体となってどこか懐かしさも感じさせる香気漂う作品群となっている。
短編集の掉尾を飾るのは、「マイケルの妻」という作品である。
アメリカに働きに行った息子の妻が、老夫婦の住むアイルランドの片田舎にやってくる。彼女は疲れ、暗い影をたたえている。息子夫婦に何があったのか、老夫婦は気が気でない。マイケルの妻は次第に土地になじみ、老夫婦や周囲の人たちとも打ち解けてゆく・・・。
息を呑むほどの景観の精妙な描写。人々の言葉にならない哀切な思い。時にユーモラスに、時にミステリアスに、オコナーは滋味あふれる筆致で描いている。(IK)
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