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「鼓動」2010年10月22日

アンダンテ・カンタービレ

鼓動 ウクライナの民謡に想を得たチャイコフスキーの『弦楽四重奏曲第1番第2楽章』。俗に「アンダンテ・カンタービレ」という呼称で知られている。

 3年前の秋、末永文化センターで開催された九州交響楽団主催サンクス・パーティにおいて、九響客演指揮者ダヴィッド・ゲリンガスさんのチェロ独奏による「アンダンテ・カンタービレ」を聴いた。ゲリンガスさんは、リトアニア生まれで、モスクワで先年亡くなったチェリストの大御所ロストロポービッチに師事し、チャイコフスキーコンクールで第1位を受賞している。

 ゲリンガスさんのアンダンテ・カンタービレは、弦楽四重奏とは一味もふた味も違った。深々としたしかもメリハリを利かせたチェロ独奏が現出させるロシアの田園風景。目をつぶると、異国の地でひとり船旅をする者のような気分になってくる。

 南ロシアのどこか田舎を走る運河を、初老の男を乗せた船が、ゆっくりと下ってゆく。
 運河の左岸には直立したポプラの並木道が長く続いている。右手には、色づいた麦の畑が光り輝き広がっている。時折吹く風が麦の穂を揺るがせ、ザワワと騒いでは通り過ぎる。
 行く手には次第に村の家並みが見えてくる。建てかけの民家もあって、大工たちが屋根の上でのどかな民謡を歌いながら働いている。明るい日差しの中、聞き覚えのあるメロディーが心地よい。
 男はその歌に耳を傾けながら、過ぎた昔を思い出している。
 船はやがて小さな町に入ってゆく。古い石橋をくぐって進むと見覚えのある景色が現れる。
 とりどりの花で飾られた家々の窓。かつて滞在した頃と変わらぬこの町の懐かしい表情。
 鮮やかによみがえってくるのは遠い日々のほろ苦い記憶だろうか。
 船は再び町を抜け、流れに任せるように運河を下ってゆく。そして、その姿は次第に小さくなってゆき、暮れ始めた田園の風景の中に溶け込んでゆく。
 
 名手の演奏を堪能しながら、しばし、空想の中をさすらった。(IK)

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