「鼓動」2010年11月1日
さよならウォークマン
5年ほど前である。上海を旅したとき、浦東新区にある上海テレビ塔に上った。350メートルの展望台からの景観は見事なはずだが、街並みはスモッグで靄がかかったようだった。展望台のスピーカーから繰り返し流れてくるのは聞き覚えのあるメロディだった。中国語で歌う『瞳をとじて』。この曲は小説家片山恭一作の『世界の中心で愛を叫ぶ』の映画のエンディングに使われていたはずだ。上海こそ世界の中心であるといわんばかり、そんな感じさえした。映画『世界の中心で愛を叫ぶ』の中で、たしか、主人公が実家の押し入れからカセット型ウォークマンを見つけ出すシーンがあった。80年代に流行った見覚えのあるウォークマンだった。
10月22日、SONYはカセット型ウォークマンの国内向け生産を終了したと発表した。
世界で2億数千万台売れたメガヒット商品だが、もはや国内の需要はほんのわずかだ。ただ、中近東などでの需要に対しては、中国でなお生産は行うようだ。
ウォークマンを買ったのは、1981年の夏だ。メタルテープ対応のウォークマン2号機だった。オレンジ色のイヤ―パッドのヘッドフォンがついていたが、同じものをもう一つ買った。彼女と二人して聴くためだった。聴いたのは、米国のジャズコーラスグループ「マンハッタン・トランスファー」だった。場所は遠距離バスの中だったかもしれない。
あの時のウォークマンもマンハッタン・トランスファーのカセットもまだ実家の押入れの中に眠っているはずだ。ウォークマンの国内販売の終了の新聞記事に、30年前のことが浮かび上がった。(HR)
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