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「鼓動」2010年11月23日

鼓動 今年は、全国各地で熊が出没し被害が続出した。猛暑の影響によってドングリなどが不作となって餌を求め里に下りてきたとみられるが、過疎化で里山が崩壊して山と里の境界線が崩れ始めていると、指摘する声もある。

 熊の出没地域ではハンターが集められたが、出没した熊をとらえようにも、狩猟人口も少なくなり、また高齢化もあって、思うようにはいかなかった面もあるようだ。日本の狩猟人口はこの30年間で3分の1の16万人になっている。

 最近アメリカの作家フォークナーの『熊』という作品を読んだ。フォークナーは、過酷な人生の実相に迫る長編が多く、また難解とも言われ、これまで敬遠してきたのだが、『熊』は語りのうまさもあって読み応えのあるものだった。内容は、ミシシッピィ川の森にすむ大熊の狩りを描いた狩猟物語である。しかも、単に熊狩りの興奮やスリルを語るばかりではなく、主人公の少年の精神の成長を辿っている。フォークナーは幼い時から、父から狩りと釣りを教えられ、すでに8才の時にはライフル銃を与えられたようだ。訳者によれば、『熊』の文章には、作者の少年期に体験した狩りのスリルや興奮が深く滲み込んでいるという。

 ほぼ同時代の作家ヘミングウェイが、狩猟を自己の勇気と征服欲を満足させるものとしか思わなかったとすれば、その意味で、フォークナーは全く対極にあったようだ。ヘミングウェイは殺した大象の上に座って笑っていたが、フォークナーはそうした行動からは遠かった。『熊』の主人公の少年は、大熊と出会うために、森の中で身につけていた文明の道具をすてて進んでゆくシーンは印象的だ。登場人物も実に魅力的な男たちである。なかでもインディアン酋長の血をひく黒人サム・ファーザーズは、少年に狩りを教え、森の精神を伝える老人だ。少年はサムの深い教えを通じて、大切なものを学んでゆく。大熊を追い詰める場面の躍動感あふれる描写には息をのむ。そして登場人物のそれぞれの思い。人間フォークナーのまなざしはなんと深々として優しいことか。(IK)

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