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「鼓動」2010年11月30日

回想のパリ

鼓動 11月下旬のこと。参加したある経営セミナーの講師は、いきなりヘミングウェーの『移動祝祭日』の話から始めた。講師は、企業法務を専門とする弁護士の肩書のほかに、小説やエッセイも手掛ける作家でもあった。『移動祝祭日』は60歳を過ぎたヘミングウェーの遺作短編集である。講師の年齢もちょうどヘミングウェーと同じくらいであった。

 第1次世界大戦後の1920年代半ば、ヘミングウェーはパリの街で青春時代を過ごす。『移動祝祭日』の冒頭には、友人に語ったヘミングウェーの言葉が飾られている。「もし、きみが幸運にも青春時代にパリに住んでいたとすれば、きみが残りの人生をどこに過ごそうとも、パリはきみについてまわる。なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ」

 「冬の最初の冷雨とともに、この都市のすべての悲しみが、突然やってきた」。作家志望の若者がサン・ミッシェル広場のカフェに座って、カフェ・オレをすすりながらノートに物語の草稿を書きつけていると、一人の女がカフェに入ってきて、窓近くのテーブルに腰かけた。とても綺麗な女で、若者は心が乱れた。女は誰かを待っているようだった。若者は再び書きはじめた。
「美しいひとよ、私はあなたに出会った。そして今あなたは私のものだ。あなたが誰を待っているにせよ、また私が二度とあなたに会わないにしても、あなたは私のものだ。全パリも私のものだ。そしてこの私は、このノートブックとこの鉛筆のものだ。」

 どれくらい時間がたったのか、若者は物語の中へずっと没入していた。やがて物語が終わると、例の女はすでに立ち去っていた。若者はノートを閉じると、ポルトガル牡蠣を1ダースと辛口の白葡萄酒を水差しに半分注文する。「牡蠣は強い海のにおいとかすかな金属の味がしたが、冷たい白葡萄酒はそれを洗い流して、あとにただ海の味と汁気を残した。私はその牡蠣を食べ、一つ一つの貝がらから冷たい汁を飲み、さわやかな味の葡萄酒で、それを流し込んだ。そうしていると空虚な感じが消え、楽しくなって、これからの計画を立て始めた。」

 創作一筋に生きた無名時代の生活や周りの親しい友人について、楽しい思い出とともにほろ苦さや悔恨も見える『移動祝祭日』。この短編集を書き上げた翌年の1961年7月、ヘミングウェーは自殺している。(IK)

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