「鼓動」2010年3月9日
夜の梅
谷崎潤一郎のエッセイ『陰影礼賛』には、薄暗がりで羊羹を食べる話がある。「人はあの冷たく滑らかなものを口中に含む時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ(中略)味に異様な深みが添わるように思う」
周囲の空間に融け込んでいる羊羹の存在。まるで漆黒の闇そのものを食べているかのような気分にさせられるところに、羊羹の特異なる味わいが生じるという。
谷崎の感受性は読み手の想像力に分け入って刺激するには十分だ。
老舗虎屋の羊羹に『夜の梅』というものがある。闇に浮かぶ白梅の花をイメージした羊羹だ。夜の深さに甘い香りを漂わせながら、淡い梅の官能を秘めた練り羊羹の逸品である。
部屋の明かりを落として薄暗くなった部屋で夜の梅を口中に含む。暗黒が甘く融けてゆくひととき。そんなことを一度試したい。(IK)
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