「鼓動」2010年8月13日
センス・オブ・ワンダー
今をときめく分子生物学者の福岡伸一さんの最新著作『ルリボシカミキリの青』(文芸春秋)によれば、福岡さんは小さい頃から、「ルリボシカミキリ」を追い求めていたそうだ。ビロードのような深い青の上に真っ黒な斑点を散らした小さなカミキリムシは、伸一少年にとってまさに憧れの的だった。
ところで、このルリボシカミキリの「瑠璃」は、「ラピスラズリ」と呼ばれる宝石の和名である。ラピスラズリは、アフガニスタン奥地に産出される夜空のように輝く群青の宝石で、ツタンカーメン王のマスクや正倉院所蔵の紺玉帯などに見ることができるそうだ。
そのラピスラズリを原料とした青色顔料が天然ウルトラマリンである。
人工合成顔料として登場するのは19世紀になってからである。
17世紀のオランダの画家フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」は、少女が巻いているターバンの青ゆえに「青いターバンの少女」とも呼ばれる人気作品だが、このつややかなターバンを描くのにフェルメールは高額なラピスラズリを惜しげもなく用いている。
そのため、絵を描いて350年を経ても、なお色あせないという。
さて、ルリボシカミキリの青を求めて、何日も、何シーズンも野山を駆け回った伸一少年は、ある年の夏の終わり、ついに朽ちかけた木のひだに、ルリボシカミキリを発見する。
「嘘だと思えた。しかしその青は息がとまるほど美しかった。しかも見る角度によって青はさざ波のように淡く濃く変化」した。
その青に震えた感触こそ福岡さんのセンス・オブ・ワンダーとなっている。(IK)
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