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櫻井孝昌(Takamasa Sakurai) のJAPAN! JAPAN! JAPAN!

第13回 ロシアを愛してやまない声優、上坂すみれが伝えたいこと、したいこと、その思い

モスクワは、私の文化外交活動のなかでも特別な思いがある場所である。
行って自分で体感してみなければわからない。それは文化外交活動を通しての私の実感だ。
日本のアニメがどれだけ知られているのかまったく情報が日本に伝わっていなかったころのサウジアラビア訪問(2008年3月)や、現在のような開放政策化にないころのミャンマー訪問(2008年9月)で受けた、アニメファンからの熱狂的な歓迎は、そのことの何よりの証明だった。
モスクワで、アニメやファッションといった日本のポップカルチャー紹介イベントを企画しよう。在モスクワ日本大使館の関係者と企画したジャパン・ポップカルチャー・フェスティバル(現名称J FEST)が初めて開催されたのは2009年11月のことだった。当日は、氷点下のなか、たくさんの若者たちが開場の5時間以上前から行列を作ってくれた。
オーディションで選んだ、原宿ファッションショーのモデルたちには、ショーの終了後、楽屋で「ありがとう」と声をそろえて日本語で言われた。ステージ終盤には観客席から「また帰ってきて」「来年も待っているから」という温かい声援をたくさんもらった。
ステージで司会をしながら何度泣きそうになったことだろうか。
これほどまでに、モスクワの若者たちが日本に関心を持ってくれていること、好きでいてくれることをまったく知らなかったせいもあるが、それ以上にその愛が嬉しかったのだ。
翌年の再会は、モスクワの若者たちと私との固い約束だった。
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ジャパン・ポップカルチャー・フェスティバル(2009年)
2010年ジャパン・ポップカルチャー・フェスティバルの会場の熱気も、2009年に負けじと劣らない熱さだった。この熱気を一刻も早く日本の人たちに伝えたい。そんな思いで帰国後すぐに書いた読売新聞の原稿に、誰よりも熱いメッセージをツイッターでくれた一人の女子がいた。それが声優、上坂すみれとの出会いだった。
いかに自分がロシアを愛しているか、このイベントが日本とロシアの関係にとって重要な意味を持っているか、人はたった140字でここまで自分の想いを伝えることができるのか。書くことを生業にしている私にも熱くそう思わせる文章だった。
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ジャパン・ポップカルチャー・フェスティバル(2010年)
1.jpg▲昭和や明治に激しい関心を寄せる平成生まれの上坂すみれ
彼女のツイッターを見にいくと、ロシアだけでない、アニメやロリータファッショも大好きなことがわかった。プロフィールには「ソ連とロシアを何より愛する皆様のアジテーター」と書かれていた。その言葉選びのセンスに感心すると同時に、なんと誕生日が一緒ではないか。
ツイッターを通して、私と上坂すみれとの最初の交流は始まった。
それから早いもので、1年半以上のときが流れた。出会ったときは18歳、上智大学ロシア語学科で本格的にロシア語を学んできた彼女も大学3年生になった。小さいときからの夢だった声優としても、アニメ「パパのいうことを聞きなさい!」のヒロイン役で本格的に活動を開始した。
私とも、本連載でも紹介したFMラジオ番組「東京No.1カワイイラジオ(通称カワラジ)」(JFN系全国27局ネット)のパーソナリティをともにつとめている。人の縁とは不思議なもので、そして大切なものだと改めて思う。
学業と仕事の両立と簡単に言うには、ロシア語学習も声優も厳しい仕事である。それを両立させる上坂からいつも感じるのは、ロシアやアニメへのかぎりない愛情だ。
「アニメというものを通したとき、日本と世界の境目がなくなってきていると思うんです。日本と世界のアニメファンに差はないんですね」
彼女のなかでも、自分が愛するロシアとアニメはいつもつながっているのだ。
出会って以来、上坂とは海外と日本のことをたくさん語り合ってきた。そんな彼女は日本と世界の関係をどう考えているのだろうか。
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▲桃井はるこの存在が声優を目指すきっかけだったという
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▲時間があれば、中野ブロードウェイに通う
「日本は200年ほど前まで、長い間鎖国していたわけで、世界は余所(よそ)という村の文化がまだどこかに根強く残っているのだと思います。でも、実際には日本に深い愛情を持ってくれたり、関心を持ってくれる人たちがたくさんいる。モスクワに大学のサークルの合宿で行ったとき、私も実感しました。そのことにいちばん気づいていないのが日本人自身なのではないでしょうか。
私自身もチャンスがあれば文化外交したいです。現地でたくさんの人と話してみたい。そのことで、その国のイメージがどう変わるか、そして日本のイメージをどうよくできるかチャレンジしたいです」
われわれ二人を出会わせたロシアという国に関して、メディアの報道だけを追っていると、大きな壁ばかりが見えてしまうのもいたしかたないだろう。だが、事実はメディアの報道の上だけに成り立っているわけではない。このことは、私も本連載をはじめ、たくさんの場で主張してきたとおりだ。
かなり以前、私のツイートに「国と国の関係は利害関係だけではないはず」といった趣旨の返信を彼女がくれたことを、とてもよく覚えている。まったくその通りなのだ。
5.jpg▲「カワラジは、海外と日本の関係を知るたくさんのゲストもお招きする
「ロシアをパッと見でマイナスのイメージで見ないでほしいなと思います。ロシアの文化や、日本が大好きな人がたくさんいるといったことを、私も地道に伝えていきたいです。ロシア人には日本人と同じような、よい意味での闇のようなもの、根源に流れる薄暗さが存在すると思っています。ロシア文学が好きな日本人が多いのもそのせいではないでしょうか。悲しい状況を美しくとらえるといった志向です。ロシアと日本が仲良くできないわけがないんです。なんとなく厭だという空気は厭です。いまはロシアに関する情報が日本に少なすぎると思います。海外に精通している人が、発信の仕方を変えていくといったことも必要なのではないでしょうか」
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▲ロリータファッションは少女時代からの日常
高校1年生のころ、ソ連の国歌を聴いたのがきっかけでソ連やロシアに関心を持つようになった上坂。彼女はたった一人で、その歴史や社会を調べていった。大学に行くならロシア語学科以外は考えられなかったという。
そんな愛するロシアに上坂が伝えたい日本は何だろうか。
「単に使えればいい生活用品を、小さくしたり、可愛くしたりする日本人の精神や技術、心のちょっとした微妙な気持ちを萌えで表現したりする細かさといったことです」
彼女の本業である声優も、アニメイターたちがそんな細やかさで作り上げたキャラクターたちに命を吹き込む仕事だ。
「ずっと声優の仕事につきたかったんです。声優の仕事を始めて、アニメ業界がまったく別の認識になりました。せりふひとつひとつの情報量だったり、画面との距離感だったり、日々勉強です」
アニメへの愛にも、ロシアへの愛にも、上坂すみれはどちらが上位といったふうにきっと考えることはしないだろう。
そして、いま日本が世界と改めて向き合っていかなければならない状況下、彼女のような精神こそ日本人に必要だと私は思っている。
アニメは海外にウケようと思って作ってきたわけではない。結果的に海外でウケた。ゆえに、これから改めてどう世界に向き合って作品を作っていくかはアニメ業界の重要な課題だ。
私がインタビュー等で話してきたアニメ制作会社の代表や監督の多くが、こう口にする。
「ロシア語をあと2、3年でマスターして、中国語にもチャレンジしてみたいなと最近思っています。中国語、興味があるんですよ」
本連載の読者のみなさまにも、声優上坂すみれのこれからに注目してほしいなと思っている。
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執筆者:櫻井孝昌氏プロフィール 

櫻井孝昌.jpg作家、ジャーナリスト、事業企画・イベントプロデュース等の仕事とならび、世界24カ国延べ102都市で講演やイベント企画、ファッションショーといった「ポップカルチャー文化外交」活動を実施中。外務省委嘱のカワイイ大使プロデューサー、アニメ文化外交に関する有識者会議委員等も歴任。著書(発売順)に『アニメ文化外交』(ちくま新書)『世界カワイイ革命』(PHP新書)『日本はアニメで再興する』(アスキー新書)『ガラパゴス化のススメ』(講談社)『「捨てる」で仕事はうまくいく』(ダイヤモンド社)がある。
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