「鼓動」2010年5月29日
川の流れのように

プラットフォームから乗って来たのは、5人のガイジンだった。なにやら皆上機嫌の様子だった。いつものように車内は通勤帰りの乗客で混雑していた。
しばらくして、ひとりが不意に歌を口ずさみ始めた。すると残りの4人が、それに唱和した。車内は瞬く間に合唱の声が響き始めた。美空ひばりの歌「川の流れのように」だった。
日本語で歌うガイジンたちに乗客は目を瞠った。ガイジンのオトコたちはいずれも魅力的な声の持ち主だった。歌い終えた彼らは、車両を満たす大きな拍手に包まれた。
一昨年の10月、コルシカ・ポリフォニー(主旋律と伴奏の区切りがない多声合唱)と呼ばれる男声合唱を聴いた。会場は福岡市にある末永文化センター。300人ほどの聴衆だった。5人のコルシカ人による伝統的なコルシカ歌謡の合唱には、風土に根ざした力強い大地の歌の響きがあった。
コルシカ人の歌う「川の流れのように」。
この夜も歌った。5つの力強い声がそれぞれ独立し、同じような比重で歌われる。日本語の歌でポリフォニーの多重性を実感する。
静かに歌い終わると、その日一番の拍手が大きく響いた。余韻が会場の隅々まで支配した。(IK)