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和田彩花 "浮世絵10話" 第五話 東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」

和田彩花(アンジュルム)
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名画はなぜ名画なのか?

美術館や美術展で有名な画家の絵画を鑑賞しているとき、こんなことを考えたりしませんか?この絵がすばらしいなあと思って観ているのは、その画家が世間から評価された有名な画家だからすばらしいから?世間が、教科書が、ガイドブックが名画というからこれは名画なんだ。そんなことです。そして、ゴッホやルソーなどのように、生前評価されなかった画家の絵を観ていると、なんで当時の人たちはこの絵を理解しなかったんだろうって思ってしまいます。
でも、その当時にその絵を観て、私もいま感じているようにその絵を評価できるのかな?もちろん美術史を学んでから絵画鑑賞をすることは悪いことではないです。私も専門的に美術史を学び始めてから、それまでよりもっともっと絵画が好きになりました。

とはいえ、その絵が描かれた当時の人たちには、未来のことなどはまったくわかりません。ゴッホもルソーも残念ながら世間に認められず亡くなってしまいましたが、彼らの周りにいる人も言ってみればそれは同じことなんです。ゴッホやルソーが、世界の絵画を代表する存在になり、教科書やガイドブックに当たり前のように載っているなんて、誰も想像できなかったでしょう。

今回取り上げる浮世絵を代表する絵師、写楽もそんな一人。浮世絵界でもっとも謎な人物、写楽が描いた絵が、圧倒的な評価を受けるようになるのは、ずっと先のこと。多くの人たちが浮世絵といえば思い浮かべる絵の一枚に、今回取り上げる「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」があるなんて、当時の江戸の人たちには想像すらできなかったのではないでしょうか?
「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」を教科書やガイドブックに出ている名画としてではなく、当時の人たちの気持ちで鑑賞していると、私のなかでもいろいろ新しい発見ができてきました。
三代目大谷鬼次の江戸兵衛
▲東洲斎写楽 「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」

写楽のデビュー戦は空振りだった

浮世絵は日本が創ったすばらしい芸術作品!と今では誰しもが思いますが、当時の作り手にとっては、芸術という意識はほとんどなく、むしろビジネスとしての思惑が強かった?
喜多川歌麿を世に送り出したプロデューサー蔦屋重三郎が、歌麿がスターになりすぎて、ちょっと距離が離れてしまったころに、次なるスーパースター候補として登場させたのが写楽です。歌麿は最近オレに冷たいから、新しい画家で鼻をあかせてやれっ!って感じだったのでしょうか。

1794年、写楽は、役者を描いた28枚もの大首絵で蔦屋重三郎のプロデュースのもとデビューします。なんだかアイドルのデビューみたいな話ですよね。蔦屋重三郎は、きっとものすごく期待していたんでしょう。自信もあったんだと思います。だって、そうじゃなかったら28枚もの役者絵をいきなりまとめて世に出しませんよね。ところが、結果でいえば、蔦屋重三郎の目論見は空振りに終わってしまいます。評価も賛否両論、なによりも期待したほどは28枚の絵は売れなかったようです。

これって、ものすごいショックだし、当事者たちは焦りますよね。いわゆる有名な写楽の絵はほとんどこの28枚のなかのものですが、その結果に蔦屋重三郎&写楽連合は画風の軌道修正を迫られます。ですが、それも残念ながらあまりうまくいきません。そして、写楽という浮世絵師は謎に包まれたまま、世間から消えていきます。結果、最初期の作品のみが時代を越えて後世認められていくのはなんとも皮肉ですよね。

変顔の元祖?

江戸のみなさんにとって、歌舞伎役者はヒーローで、スーパースターでした。アイドルや俳優さんのブロマイドを集めるように、江戸のみなさんは役者絵を購入していたんです。それにしても、写楽はなぜこんな突拍子もない大首絵を描こうと思ったのでしょうか? プロデューサー蔦屋重三郎の意志? それにしてもぶっ飛びすぎてません?アイドルの写真でいえば、ライブ中の、しかもちょっと変な顔になってしまった写真ばかりがジャケットのCD28枚がいきなり売り出されたようなものです。28枚同時って、もうこれは超大型新人のデビューです。

  歌麿をスターにした蔦屋重三郎プロデュースの大型新人「写楽」デビュー! 浮世絵28枚同時発売!

こんなキャッチコピーが浮かんでしまいます。ところが、写楽の描いた浮世絵は、そのモデルになった役者たちにもあまり評判がよくなかったようです。私は、デフォルメされた絵を描く似顔絵師さんを思い出します。
あ、あの人だ! 有名人ならその顔が誰でもわかりますが、ぜんぜんかっこよく描いていません。その人の、もしかしたら気にしている顔の部分をわざと誇張して描いたりするんですから。でも、よく特徴をつかんでいるから、誰だかすぐにわかります。

私はそんなふうに描かれたら嫌だなあ。そういう絵を見ながら、私はこんなふうに描いてほしくないなって思います。役者さんたちやファンも、写楽の絵を観て、どうやらそう思ったようです。なんで、かっこよく描いてくれないんだよ。そんなブーイングが聞こえてきそうです。こんな反応を蔦屋重三郎も写楽もあらかじめ想像できなかったのかな?喜多川歌麿の浮世絵とあまりにも違いすぎます。歌麿へのあてつけに、あえてまったく違った画風の絵に写楽と取り組んだのでしょうか?でも、そんなことを考えず、もしかしたら考えたのかもしれませんが、28枚のこの大胆な役者大首絵を世に出してくれたからこそ、後世を生きる私たちは浮世絵の新境地を、時代を越えて楽しむことができるわけで、やっぱり美術史っておもしろいって思うんです。

写楽が描きたかったもの

役者の三代目大谷鬼次が演じる江戸兵衛はかなりの悪人のようです。このシーンも一言でいえば、大金を奪い取る強盗のシーンだそうです。まず誰しもの目がいくのは、顔と着物からにゅっと出た手でしょう。なんだかこの手からエネルギーが出てくるようです。それにしても、この手、バランスがとても変。長さがおかしいし、なんでちゃんと描かなかったのかな?役者さんの手の動きがすごかったので、強調したかった?指もなんだか粘土でくっつけたようです。顔の表情もとても個性的。でも、きっと実際、舞台のうえではこんな表情だったのではないでしょうか? 写実ではないけれど、きっとその特徴をとらえているんです。

写楽は、役者本人ではなく、この「役」自体をきっと描きたかったんです!私もスマイレージとしてのCDジャケットなどの写真は自分ですが、舞台のポスターの写真を見たりすると、自分ではない人が写っている気がします。そこにいるのは自分ではないのだからよいのではとも思う反面、自分の特徴を思いっきり誇張されて描かれた本人は嫌な気分になることも多かったんだろうなと、自分がそう描かれたときのことを想像すると思います。

メンタルが弱かった?

役者絵の常識を根底から崩した絵を描いた写楽は、たくさんの謎に包まれた浮世絵師です。写楽ってどんな人だったんでしょう?意外にメンタルが弱かったんじゃないかな?だから、こんな大胆な絵を28枚も世にだしたのに、自分の描きたいものを描き続けられず、絵柄を変えて、それがまた不評で最後には心が折れて、浮世絵の世界から身を引いてしまった。私の勝手な妄想のなかでの写楽像です。

こんなすごい絵を描いているのに、才能があったのに、それを貫けなかった。世間の評判に負けてしまった写楽に、なんだか絵のイメージとはまるで異なる人間味を感じます。すべてが謎のアイドルが現れて、ものすごいプッシュされて、でも3曲ぐらい歌って存在を消していく。そう考えるとちょっと悲しいですね。写楽の人生は想像することさえ難しいですが、でもこういう人が出現するところが、芸術のおもしろさだとも思います。

浮世絵はポストカード

浮世絵は江戸時代の時代時代に、いろいろなタイプの絵師を輩出しました。浮世絵というと、つい一括りにして考えがちですが、知れば知るほどひとりひとりの画家の違いが見えてきます。浮世絵とはこういうものだという定義は、当時の人にはなかったし、浮世絵師がいままでとまったく違うことをして、世の中に注目されたい、一山当てたいって思っても当然でしょう。

私は、浮世絵をポストカードのように考えるとよいのかなと思えてくるようになりました。ポストカードは、形は同じでも、中身、そこに描かれている絵や写真はひとつひとつまったく違うものです。江戸のみなさんのオタク性が築きあげた浮世絵という芸術。江戸の人たちは、それを芸術とは思っておらず、極端にいえば使い捨てに近い状態だったのに、遠く離れた印象派の画家たちが、その一枚一枚を芸術作品としてポストカードを集めるように一生懸命集めていたという事実。そんな両者のギャップをいちばんよく想像させてくれるのが、写楽の28枚の浮世絵なのかなと思います。
和田彩花 和田彩花 和田彩花

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執筆者:和田彩花(アンジュルム)プロフィール 

『乙女の絵画案内』_small.jpgルックスとスタイルを生かし、雑誌の表紙、グラビアなども多数。美術が好きで、西洋画を見るのが好き。好きな画家は、レンブラントとエドゥアール・マネ。大学では美術史を専門に学んでいる。また、最近では日本の仏像・絵画にもハマり、朱印帳を買って寺院の朱印集めなども行っている。「絵画」について語る連載、著書「乙女の絵画案内」の発売など、美術方面の活動も徐々に広げているSATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット『ピーベリー』としても活動。

著書「乙女の絵画案内」
http://shuchi.php.co.jp/article/1846
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