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和田彩花 "浮世絵10話" 第十話 菊川英山「当世薬玉五節句」

和田彩花(スマイレージ) 「浮世絵10話」
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江戸はカワイイ

1年近くに渡って連載してきた本連載「浮世絵10話」も今回で最終回です。1年間、さまざまなタイプの浮世絵を観てきたことで、江戸時代は私にとって、とても身近な存在に変わりました。浮世絵って楽しいし、カワイイ!そんな私にピッタリの展覧会が、歌川国貞の回でもお世話になった太田記念美術館で開催されました。
「江戸ッ娘~カワイイの系譜」です。今回も本連載のプロデューサー櫻井さんといっしょに、学芸員のみなさんから、ためになる刺激的なお話をたくさんうかがえました。やっぱり学芸員のみなさんは私のあこがれです。私もいつかぜったいに学芸員の資格を取得したいです。

「江戸ッ娘~カワイイの系譜」のなかで私がとっても気になった絵が、菊川英山の「当世薬玉五節句」でした。とてもカワイイ女の子が、熱心に本を読んでいます。着物もとってもカワイイ。でも、その後ろにはなんだか見慣れない飾り物があって、見方によっては生き物のようじゃないですか。これは、端午の節句に飾り、厄払いをする薬玉というものだと学芸員の赤木美智さんに教えていただきました。

五月の端午の節句といえば、現代では男の子の節句ですが、女の子が薬玉を見ながらにぎわっている光景も浮世絵にはしばしば登場するそうです。当時は女の子たちも端午の節句を祝っていたんですね!
菊川英山
▲菊川英山「当世薬玉五節句」
文化後期(1809-18)頃 太田記念美術館蔵

歌麿以後の浮世絵の第一人者なのに……

菊川英山という浮世絵師のことは、本展覧会で初めて知りました。渓斎英泉の師匠さんで、喜多川歌麿亡き後の、美人画の第一人者で、とても人気が高かった浮世絵師だったんです。

私が浮世絵を勉強するようになってビックリしたことは、江戸後期にとても人気の高かった浮世絵師の何人もが、現代の日本であまりというかほとんど知られていない状況です。歌川国貞、渓斎英泉、そして菊川英山。当時の人気ぶりでいえば、もしかしたら喜多川歌麿や鳥居清長を凌いだのではというほどの人気ぶりのみなさんが、どうしてスポットライトをあびなくなってしまったんでしょうか?ゴッホやゴーギャン、ルソーのように、死んでから評価が高まる、私たちアンジュルムの「大器晩成」の歌詞に出てくる“後付け天才”の逆のパターンがあるなんて!

明治に入り、文明開化の号令のもと、江戸文化のたくさんのものが日本人の心から見捨てられるなか、逆に海外で江戸文化が「ジャポニスム」として評価され、その風潮が日本にやがて戻ってきて浮世絵が再評価されます。そして、浮世絵は商品から芸術へと日本人の見方も変わるのですが、その過程で浮世絵師たちの評価にも明暗が分かれてしまったんですね。浮世絵が主役の、数奇な運命をたどった人間ドラマを映画で見ているようです。

女の子の気持ち

「江戸ッ娘~カワイイの系譜」では、忘れられた浮世絵師たち、菊川英山、渓斎英泉、歌川国貞の浮世絵がたくさん展示されていました。そこに描かれた女の子たちは、とてもファッションを楽しんでいます。浮世絵を通して原宿の街を見ているようです。

太田記念美術館という浮世絵専門の美術館が原宿にあることが最初はとても不思議だったのですが、いまではむしろ原宿にあるからこそいいんだと思うようになりました。浮世絵、とくに英山や英泉、国貞らの作品を観ると、江戸のみなさんのファッションにたいするさまざまな発想を知ることができて楽しいです。

たとえば着物。私も成人記念に着る振袖を選ぶのにカタログをたくさん見ましたが、英山たちの浮世絵を観ていると、そのときの気持ちを思い出しました。それらの浮世絵が、現代のカタログに載っていたとしても、違和感がぜんぜんないです。江戸の女の子たちも、ファッションにとても敏感だったんですね。

そして、そんな女のこたちの気持ちを浮世絵に見事にくみ取ったのが英山たちだったわけです。赤木さんのお話によると、浮世絵に出てくるような着物は、誰でもがいつでも着られるわけではなかったそうです。でも、だからこそ、江戸の庶民たちは、そんな着物に憧れたんでしょうね。

その気持ちすごくよくわかります!ファッション誌のコーディネートを素敵と思っても高くて買えないときに、観るだけで満足したり、それに近いお洋服を探すようなことを、江戸のみなさんもしていたようです。着物では難しいけど、同じような柄を手ぬぐいで探すといったことです。ちょこっとだけ憧れの模様やデザインを自分の身近なものに取り入れるんです。江戸の女の子たちってカワイイな。ますます彼女たちに親近感を持つようになりました。そして江戸時代の女の子たちが、ファッションにいろいろな工夫をしていたことをすごい!と思いました。女の子がカワイイものを好きな気持ちは、江戸もいまもなにも変わらないんですね!

髪型がもっともゴージャスな時代

英山たちが活躍した化政文化の時代は、小学校の歴史の教科書にも登場する、寛政の改革と天保の改革をまたぐ時期にあたります。江戸時代は、楽しくて、ゆとりの時代ばかりでなく、お上による江戸風俗への締めつけもいろいろありました。浮世絵に対する取締りや規制も行われたりします。そして、それがゆるみ出すと、また浮世絵が派手になっていくんです。

そんなことを繰り返しているうちに、江戸時代は武士の時代からだんだんと町人が経済的に力を持つ時代に移行していきます。やっぱりオシャレしたい、かわいくありたい。女の子たちの気持ちも、時代とともに高まっていき、浮世絵の中にもそんな女の子たちの気持ちが溢れ出してきます。お金があって、商品もあれば、手に入れられる素敵なファッションをしたいと思って当然ですよね。

文化文政時代は、女性の髪型が江戸を通してもっともゴージャスだったことが、浮世絵を通してわかるそうです。かんざしのような髪飾りもたくさん作られ、髪型もどんどん派手になっていきます。髪結師という職業も登場してきます。髪型もそれだけ複雑になってきたからで、ようは現代のヘアサロンであり、美容師さんです。

歌舞伎を観にいったりするときも、最新の髪型を髪結師さんにゆってもらったりしたんですって!現代の女の子がパーティーやライブに行く前にするのと、これもいっしょですね。べっ甲の髪飾りも本物は高いので、水牛の角を加工したものが出回りました。唇にさす紅も、何色も重ねて、当時の流行りである玉虫色に発色よくさせるのはお金がかかるので、庶民は薄い墨をまず塗り、その上に紅をさして緑っぽくする裏ワザまであったとか。フェイクや裏ワザまで江戸のファッションで有りだったなんて!

髪もとにかく盛り盛りで、成人式のテレビニュースなどでよく見る髪の盛り方とまるで同じ!ファッションの情報源、浮世絵が存在したからこそ、江戸の女性たちのセンスも磨かれていったんです。英山の「当世薬玉五節句」で女の子が着ている着物の花柄は「花勝見(はなかつみ)」とよばれる模様で、当時の人気歌舞伎役者、三代目坂東三津五郎がはやらせたそうです。浮世絵には、こんなふうに最新のトレンドもどんどん取り入れられていったんです。

いっぽう帯の幾何学模様は、有職模様(ゆうそくもよう)の一種で、宮廷装飾の流れをくむものだそうです。最新の流行とトラッドなファッション要素を自由に組み合わせるなんてことまでしていたんですね。以前、ハロー!プロジェクトの先輩、Berryz工房さんがライブで着ていた衣装に、この絵と似た雰囲気のものがあり、驚きました。その衣装が私にはとても印象的だったのですが、江戸のみなさんのファッションセンスの最先端ぶりに改めてびっくりです。

とはいえ、なんでもかんでも自由なわけではなく、身分制度があったり、風俗が華美になることへの幕府の締め付けがあったりもした江戸時代。でも、着られなかったり、禁止されるからこそ、欲もたまるということもあったのではないでしょうか。言っちゃダメと言われると言いたくなったり、見ちゃダメと言われると余計言いたくなったり。そんなことです。学校でも、スカートの丈を長くしちゃダメと言われると、短くしたくなったり、女の子のそんな気持ちです。

江戸の着物と原宿ファッション

浮世絵には江戸の女の子たちのカワイイへのあこがれがたくさんたくさん詰まっているんですね。とくに江戸後期の浮世絵を観るようになって、ますますそう思うようになってきました。着物は買えなくても、浮世絵なら買えます。浮世絵ファンも、鈴木春信のころ、旦那衆たちが中心だったとしたら、江戸後期になるにしたがって女の子のファンが増えていったのではないでしょうか。だって、こんな細かいファッションへのこだわりは、男性よりも女性が求めることですから。

英山の浮世絵を見ながら、私も子供時代を思い出しました。母にあこがれて口紅を塗ってみたり、つけ爪をしてみたり、叔母がハイヒールをコツコツ鳴らしながら歩く姿にあこがれたり。そんな思い出です。成人記念の着物を着たとき、私はとてもウキウキして、親戚に見せに回ったりもしました。浮世絵でたくさんの着物の絵を観ていたので、より気持ちが高まったのかもしれませんね。江戸の着物も、原宿ファッションも本質は変わらないです。女の子が求めるカワイイがそこにあるから。そのことを、美術館から外に出たときに、思い思いのカワイイファッションで原宿の街を歩くみなさんに伝えたくなりました。

初めにも書きましたが、浮世絵は知れば知るほど、江戸時代が身近になります。当時の江戸は世界一の芸術大国で、でも浮世絵の制作者も買う人も、誰もそんなことを意識せずに浮世絵を楽しんでいた。それがめぐりめぐって、私の人生を変えたマネや、印象派の画家たちに大きな影響を与えることになって、でも当の浮世絵師たちは誰もそのことを知らずに人生を終えた。

歴史の教科書では、寛政の改革とか天保の改革といったコーナーとは別に、文化はたいていその時代の最後のほうにおまけのように出てきます。でも、本当はそこがつながっていて、そんなあれやこれやが全部関係して文化も歴史も作られている。もっと関連させて載せてもよいのでは?お上の締め付けがあったとはいえ、江戸は200年以上の長きにわたって戦争がなかった時代。明日の自分の命もわからない時代ではなかったからこそ、人々は身近なものに楽しみを見出す余裕があったわけです。そんなことも教科書で伝えられるといいのにな。浮世絵を通して、なんだか歴史の教科書のことまで考えてしまいました。いまは私自身も江戸時代をもっともっと勉強したくなっています。

10回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。私の美術との旅は、これからもずっと一生続きます。美術史を専門的に勉強している私にとっても、とても勉強になる連載でした。読者のみなさんに改めて感謝いたします。
                                   
和田彩花

太田記念美術館

■ 美術館概要
都内で唯一の浮世絵専門美術館。葛飾北斎や歌川広重など江戸を代表する浮世絵師の作品をはじめ、肉筆画、版画の名品を約14,000点収蔵。月ごとに展示替えをし、さまざまな切口の企画展を通して浮世絵の魅力を紹介している。

■ 開館時間:午前10時30分 ~ 午後5時30分(入館5時まで)
■ 休館日: 毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌火曜日休館) 展示替え期間(月末) 11/25~1/5(工事のため)
■ 入館料: 企画展 一般;700円 大高生;500円 中学生以下無料
      *特別展は別料金
      *団体(10名様以上)は1名あたり100円割引いたします。  
■ 最寄駅: JR山手線 原宿駅(表参道口)より徒歩5分
      東京メトロ千代田線・副都心線 明治神宮前駅(5番出口)より徒歩3分 ラフォーレ原宿裏
■ 問い合わせ先: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
■ ホームページ: http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
      Twitter @ukiyoeota
和田彩花 和田彩花 和田彩花

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執筆者:和田彩花(アンジュルム)プロフィール 

乙女の絵画案内ルックスとスタイルを生かし、雑誌の表紙、グラビアなども多数。美術が好きで、西洋画を見るのが好き。好きな画家は、レンブラントとエドゥアール・マネ。大学では美術史を専門に学んでいる。また、最近では日本の仏像・絵画にもハマり、朱印帳を買って寺院の朱印集めなども行っている。「絵画」について語る連載、著書「乙女の絵画案内」の発売など、美術方面の活動も徐々に広げているSATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット『ピーベリー』としても活動。

著書「乙女の絵画案内」
http://shuchi.php.co.jp/article/1846
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