「鼓動」2010年1月28日
恐竜を飼う少女

一人の少女が空想のうちに恐竜を飼っている。とてつもなく大きな恐竜だが、少女はディッピーと名づけ、毎日乾草のえさを与えている。
思春期の奔放な想像力は、時として、非日常的な異界を取り込む。
そのことで、世界に向き合う自己は、あやうい感受性のバランスをかろうじて保っている。
やがて、恐竜は少女のもとから森へ帰ってゆく。遠ざかってゆく恐竜の頭の上には、少女の分身のもう一人の少女が乗っている。少女は静かにその姿を見送る。
「わたしを乗せたディプロドクスは、ゆっくりと歩みつづけ、やがてすっかり霧の中に消えました。わたしは見えないディッピーと自分にもう一度だけ手を振り、それからくるりと後ろを向いて、先ほどのヤナギの林の方に向かって歩き出しました」
池澤夏樹は、福岡県出身の作家福永武彦の息子である。福永は、多くの長編とともに、「発光妖精とモスラ」を書き、後にそれが映画『モスラ』の原作となっている。
親子の間に密かに受け継がれる想像力のDNA。その不思議な連鎖を感じてしまう。(Ik)
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