「鼓動」2010年3月11日
海の沈黙

『海の沈黙』(1947年フランス)―デジタルリマスター版―日本初公開、とのポスターに眼を瞠った。ヴェルコール作の短編『海の沈黙』は、抵抗文学の傑作として知られているが、たしか二十歳の頃読んだ。
河野與一の名訳だった。抑制された文体と心理劇のような描写が印象的だった。登場人物の心の微妙な変化や心臓の鼓動さえも感じられた。
が、それが戦後すぐに映画化され、ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとなっているなど全く知らなかった。
ドイツ占領下のフランスの地方都市、一人の老人と姪が暮らす家に、進駐したドイツ軍将校ヴェルナーが同居することになる。ヴェルナーは音楽家で、フランス文化に尊敬の思いを持ち、その気持ちを老人たちに語るのだが、彼らは沈黙をもって答える。
そんなある日、ヴェルナーは休暇を利用して念願のパリを訪れる。そこで彼が味わったのは、戦争の実相を知らされた後の深い絶望感だった。
映画『海の沈黙』(上映2月20日~3月19日、岩波ホール)。機会があれば是非見たい作品だ。(IK)
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