「鼓動」2010年3月14日
開花予報

北京から留学し今や神戸国際大学教授となった毛丹青さんがまだ若い時分に書いた「開花予報」という短いエッセイがある。
毛青年の住まいの隣にさる老庭師が住んでいた。庭師となってすでに60年。その手のひらは、老樹の曲がりくねった根っこのようで、しわが網の目のように広がっている。老人は、自分の手で桜をなでてその体温を計り、あと何日で花が開くかを予想することができるという。
老人の話に興味を覚えた毛青年がさらに聞き入ると、
「桜が開くときは木全体がそれは暖かくなる。その熱気は樹心から吹き出すもので、時には火のように感じるし、時には人の脈拍のようにも感じられ、どくどくと脈打っているのがわかるのです」
「夏場あんなに熱いのに桜の木はあつくないのですか」
「熱くないさ。桜が熱いのは春、花が咲くときだけなんだ」。
と語った。
この話をある女性に話すと、「三月になったら桜を抱きしめたい」と声をあげた。
そのとき、彼女のおなかには小さな命が宿っていたのだった。(IK)
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