「鼓動」2010年4月27日
糸を引かない納豆

かつてテレビ番組で、納豆の効用が大きく取り上げられ、その影響で店頭から納豆が姿を消してしまうという事態になったことがあった。品薄になった納豆をようやく手に入れ、食卓に並べるまでは良かったのだが、そこからが問題であった。
納豆を小鉢に移し、かき混ぜるのだが、どうしたことか粘りも出なければ糸も引かない。怪訝に思いながらも生卵を加え、さらに力いっぱいかき混ぜ、ご飯にかけると、納豆の粒だけが飯粒の上に残り、さらりとした液体は、まるで乾いた大地に水が吸い込まれるようにして飯椀の底に沈んでしまった。
これはどうにもおかしい。翌日家人が納豆の製造元に問い合わせてみると、驚くべき答えが返ってきた。テレビ報道で納豆の人気が急騰し、増産に次ぐ増産で、工場はてんてこ舞い。どうやら製造工程で納豆菌を投じるのを忘れてしまったとのことであった。
いうなれば、納豆菌を入れないままの未発酵のままで出荷したのだ。そんなことは思いもよらないから、ただのゆで大豆を、糸を引きにくいニュータイプの納豆かと思いき、必死になってかき混ぜていたのである。
翌日製造元からお詫びの納豆が届けられた。(IK)