「鼓動」2010年4月29日
『オーケストラ』

ボリショイ劇場の清掃係として働く元・天才指揮者アンドレイは、ある日劇場に届いた一枚のファックスを目にしたことから、昔の仲間とオーケストラを結成し、ボリショイ交響楽団と偽って、パリの劇場に乗り込むというとんでもない計画を思いつく。
寄せ集めの楽団のメンバーはタクシーの運転手、蚤の市業者、ポルノ映画の効果音担当など今はモスクワの片隅でひっそりと暮らす元の楽団仲間たちだ。
アンドレイには、もうひとつ秘密の計画があった。そのため彼はパリの劇場に、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏し、ソリストとしてフランスで人気の高いアンヌ=マリー・ジャケを迎えて欲しいとの条件をつけた。
いよいよ演奏会当日。ヴァイオリン協奏曲はひどい演奏から始まる。眉をしかめる観客たち。が、マリーが演奏し始めると、演奏は見違えるようにすばらしいものになる。
ハチャメチャな演奏の劇的変貌のプロセス。観客はこうした展開を待っていたのだ。演奏を通じて、なぜアンドレイがマリーをソリストに選んだのか明らかになってゆく。
一度は敗北した男の再起に、一人の美しい女性が現れるなんて、これぞ映画の面白さである。クライマックスは、ラストの12分。沸き起こる拍手と涙。愛すべき仲間たちに乾杯!(IK)