「鼓動」2010年5月16日
カフカ『掟の門』

が、門番には、今はだめだと断られる。無理にここを通っても、さらに屈強な門番が控えているから、とても先には行くことが出来ないというのだ。
そこで、男は待つ。門番が貸してくれた椅子に腰かけて許可を待つ。何年も何年も待つ。だが男は入れてもらえない。やがて男は衰弱し、死を迎える。いまわの際に男は問いかける。
「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰一人、中に入れてくれと言ってこなかったのです?」
すると門番はこう答える。
「ほかの誰一人、ここには入れない。この門はお前ひとりのためのものだった」
カフカ『掟の門』。わずか数ページの短編だが、その問うところは深い。
他の人間には何の意味もなく、自分だけしか入れない門なのに、その門を通れない。門番とは一体誰だったのだろうか。あるいは、トガリ鼻で蒙古ヒゲの強そうな門番は、門を入りたがっている男のもう一人の自分かもしれない。(IK)