「鼓動」2010年6月16日
フロラ・ヤポニカ

シーボルトが、日本から持ち帰ったアジサイの学名を「オタクサ」と名づけたことはよく知られている。愛妾お滝さんの名前を借りてつけたアジサイには、シーボルトの強い思いが宿っているのだろう。
シーボルトの『フロラ・ヤポニカ(日本植物誌)』は彼の日本に関する三大著作のひとつと言われ、費やした情熱も時間も経費も他の著作の比ではないらしい。シーボルトは来日以降、常に日本の植物に関心を抱き、日増しにその関心は高まったようだ。
帰国したシーボルトは、ミュンヘン大学のツッカリーニ教授との共同研究としてまとめたものが『フロラ・ヤポニカ』だった。
一方で、シーボルトは、大々的に日本の植物や種子を採集してヨーロッパに持ち帰っている。彼は日本の植物に関して最初のプラントハンターであった。と同時に、通信販売用のカタログを作成し、実際に植物の販売もしている。
その意味で日本の植物の通信販売を最初に手がけた園芸家でもあった。
そんなことを、植物分類学の専門家の大場秀章さんが書いている(『花の男 シーボルト』)。
この本を読むと、日本がヨーロッパの人々にとって世界でも有数の植物大国として映っていたことがよくわかる。
いまや、シーボルトがヨーロッパに持ち帰ったアジサイは、その後改良され「ハイドランジア」として日本に逆輸入されている。
鮮やかなその青紫色は「ハイドランジア・ブルー」と呼ばれている。(IK)