「鼓動」2010年6月29日
ジャスミン

夏沖縄に遊ぶと冷たい「さんぴん茶」が出てくる。さんぴん茶はジャスミンの香りのフレーバーテイである。その名前の由来も「香片茶(シャンピェンツァ)」という中国語の発音から転じたもののようだ。
上海に出かけた折に、現地の茶商でジャスミン茶の茶葉をお土産用に買った覚えがある。香りを移した球形の茶葉は「茉莉仙桃」(ジャスミン・ドラゴンボール)というもので、透明なガラスコップにお湯を注ぐと、茶葉の花が優雅に開いた。
ジャスミンの花は香気が高く古くから観賞用のみならず、花から採る香油は強い芳香の香料として広く親しまれている。
小説家開高健に、世界各国の花のある情景をテーマにつづった『眼のある花々』というエッセイがあったが、その一篇に北京のジャスミンの花売り屋台について書かれたものがあった。
天安門広場の片隅で、おばあさんが小さな屋台を出し、氷の上にジャスミンの花を載せて売っているという話だった。
ジャスミンはそうやって冷やしておくと花の香りが散らないで長持ちするのだという。小説家は、小さな紙袋に入れてもらったジャスミンの花をホテルの部屋の隅に置くと、やがてしなやかな香りが糸のように立ち上ってゆく・・・。
今は、そんな花売り屋台は残っているとは到底思えないが、残っていることをどこか期待している気持ちもある。(IK)