「鼓動」2010年7月30日
聞きに来よ大雷鳴を

ずらりと並んだ千手観音立像の前には護法の鬼神たちである二十八部衆が居並んでいる。そしてその両端のひときわ高い雲座には風神と雷神の両像が固めている。力強く躍動的な姿だ。太鼓を打つ雷さまと風の袋を抱えた風の神という、私たちが抱くイメージを決定付けた鎌倉彫刻の名品だ。
17世紀に活躍した京都の絵師俵屋宗達作「風神雷神図屏風」もおそらくこの彫刻に影響を受けたのだろう。
雷といえば、稲光と雷鳴。雲と雲の間あるいは雲と大地との間の放電によって発光と音響を発生する自然現象である。小さい頃はおそろしかったし、同時にワクワクもした。ピカッと光ったときから、「1、2、3」と秒数を数え、雷鳴が響くまでの時間を計った。音の速さは秒速およそ340m。秒数が短くなって、稲光と同時に家を揺るがしかねない音響になると、部屋の真ん中で、身を低くして窓の外の空を凝視し、耳をそばだてた。
「雷様にへそを取られるぞ」
小さい頃は、誰しもそう脅かされた。
教えの背景には、雷対策にはへそを隠すように身を伏せるのがもっとも安全だという経験的な知恵があるのだろう。けれどその教えには、なんだかくすぐったいおかしさもある。
遣りがたきかなしみ持たば聞きに来よ 日向の国の大雷鳴(なるかみ)を
宮崎の歌人伊藤一彦さんの歌。どうしようもない哀しみを抱え込んだら、神も降り立った日向の豪快な雷鳴を聞きに来いと友人たちを励ます。(IK)