「鼓動」2010年8月10日
少年の日の思い出

Wikipediaによれば、現在でも、80%を超す中学1年生がこの作品を学んでいるようだ。
ところが、この作品は、ヘッセ全集にも収録されておらず、ドイツではほとんど知られていないらしい。日本とは逆にドイツでは忘れられた作品である。
主人公は、蝶集めに夢中になっていた少年である。
あるとき、少年は隣に住むエーミールが羽化させたという珍しい蝶クジャクヤママユを一目みたくて彼を訪ねる。彼は留守だったのだが、美しい蝶への好奇心は抑えきれず、彼の部屋に忍び込む少年。
蝶のあまりの美しさに魅せられた少年はついには盗みを犯す。
しかし、盗みの現場を取り押さえられないかという不安のために、クジャクヤママユを誤って傷つけてしまう。
その夜、自分の犯行をエーミールに告白する少年。償いとして少年の大切にしている玩具、それどころか彼の蝶の全コレクションを差し出すと申し出る。
しかしエーミールは冷ややかにこう言う。
「どうもありがとう。君のコレクションならもう知っているよ。君が蝶をどんなふうに扱うかも今日見せてもらったしね」
打ちのめされた少年の心。家に戻った少年は、暗がりの中で蝶の標本箱から標本を取り出して粉みじんに押しつぶしてしまう。
ヒリヒリとした読後感だった。高橋健二訳の『車輪の下』を読んだのはそれからすぐだった。(IK)