「鼓動」2010年11月6日
小春

日本以上に、いまなお旧暦の世界が根付いているアジア諸国。月の満ち欠けを基本とする旧暦の世界は、長い歴史を通じて人々の季節感や生活感情を支配している。
さて、今年の11月6日は、旧暦10月1日にあたる。旧暦10月は「神無月」であり、初冬ということになるが、一方で「小春」という異称を持つ。初冬において、ときに暖かで穏やかな気候を「小春日和」という。
毎年この時期になると、我が家では吊るし柿を作ることになる。ベランダの物干し竿の一隅に吊るした柿を、小春の柔らかな日差しがいつくしむように包み込む。
小春と聞いて、すいと「心中天網島」を思い出す方は、文楽の好きな方なのであろう。同作の通称は「小春治兵衛(こはるじへえ)」。大阪天満の紙屋治兵衛と曽根崎新地の遊女紀伊国屋小春が主人公の近松の代表的な世話物だ。
泣けとばかりの浄瑠璃太夫の語りを聴いた帰りは、料理屋で熱燗が欲しくなる。(IK)