「鼓動」2010年12月11日
『歓喜の歌』

2年前に『歓喜の歌』という喜劇映画を観た。立川志の輔の創作落語を映画化したもので、ごく普通の人たちが起こすささやかな日常の奇跡を招いた人情コメディだった。
さる地方都市の文化会館に勤める飯塚主任(小林薫)は、まるでヤル気のない公務員。利用者には杓子定規な態度をとるのに、自分には甘い。つい最近までは、外国人ホステス入れあげていたが、それが原因で半年ほど前に市役所から飛ばされてきたのだった。そんな情けない夫に愛想をつかした妻は娘を連れて実家に戻ってしまっていた。
明日は大晦日という12月30日、小さな町を揺るがす大騒動は一本の電話から始まった。
「はい、こちらみたま文化会館です。明日のコンサート予約の確認ですね。『みたま町コーラスグループ』さん・・・大丈夫ですよ。お待ちしています」調子よく答える飯塚だが、その直後、とんでもない事態が発覚する。「みたまレディスコーラス」と「みたま町コーラスグループ」。よく似たグループ名を取り違えた彼は、6か月前に大晦日の会場をダブルブッキングしていたのだ。
最初は「なんとかなるだろう。どうせおばさんの暇つぶし」とタカをくくっていたものの、この日のために一年間頑張ってきた“ママさん”たちは、双方とも一歩も譲らない。人生テキトーにやり過ごしてきた中年公務員は、合唱にかける彼女たちの情熱に右往左往する。刻々と迫るタイムリミット。それぞれが抱えた事情と都合。はたして大晦日の文化会館に「歓喜の歌」は響くのか。
クドくなく、クサくなく、小気味いいギャグシーン。そんな繰り返しがいつの間にか見る者の涙腺を緩ませる仕掛けになっていた。映画にまとうやわらかな空気の笑い。日本の昔の喜劇映画に通じる懐かしさを感じさせくれた。
さて、今年の歓喜の歌をどこで聞こうか。九州交響楽団の第九は、我が国を代表するソリスト福井敬と澤畑恵美が登場する。閉塞感に満ちたこの年の憂さを、歓喜の歌でかき消したい。(HR)