「鼓動」2010年12月14日
又蝶に会ふ

蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ 深見けん二
句集のタイトルになった句である。なんと奔放で自在な句であろう。句において、人間中心主義から脱却して蝶も人も同列である。作者は軽々と飛躍して、世界をくるりと反転させる。ここに至っては、蝶はもはや人であり、人はもはや蝶である。それにどうだろう、繊細なピアノの調べにも似た軽やかさ。現実の世界なのだろうが、どこか「胡蝶の夢」めいて、夢か現実か境がはっきりしない。その朦朧とした境をさまよいながら、作者はひそやかな詩的世界に遊んでいる。
この句の隣には次の句がある。
そこまでが少し先まで蝶の昼 深見けん二
そこまでの用事だったのだろうが、現れた蝶に導かれるように、一歩もう一歩と少し先まで足を伸ばしている。暖かな春の真昼をひらひらと舞い飛ぶ蝶。その姿を眼で追い、誘われるように踏み出した作者の姿。静かな現実とは裏腹に、白日夢にも似た雰囲気を醸している。
最後は、大御所の蝶の句から離れて、1980年生まれの俳人の、しかも24歳の時の作品。
胸中に原野あり蝶生まれけり 高柳 克弘
胸中に広がる果てしない原野のどこかで、一羽の蝶が羽化し、空に飛び立った。蝶の姿は、これから人生の原野に歩みだそうとする若い作者の姿でもある。(IK)