河瀨直美監督インタビュー そこにしかない画を求めて、タイへ。

河瀨直美監督インタビュー
そこにしかない画を求めて、タイへ。
そこにしかない画を求めて、タイへ。

そんな国内外で注目を集める彼女の最新作「七夜待」は、それまでずっと映画の舞台だった生まれ故郷の奈良を離れタイで撮影された。
3カ国の言葉が入り乱れた現場
「前作の「殯の森」がフランスとの合作で、そこでの経験があって海外でも映画制作がやれるなと。新たなステージというか世界を体験したいと思いました。現場は3カ国の言葉が入り乱れて、スタッフは大変だし、役者も何を言っているのかわからない。でも、新しいことに挑戦するのがクリエーターだと思います」
映し出される映像は、旅番組で見るような「タイ」とは違う。
「私自身が初めてタイに行ったということもあり、そういう概念はなかったですね。私にとってただあの村にあるものをリアルに捉えることと、彩子(主人公)が何を感じるかということが大切でした」
映し出される映像は、旅番組で見るような「タイ」とは違う。
「私自身が初めてタイに行ったということもあり、そういう概念はなかったですね。私にとってただあの村にあるものをリアルに捉えることと、彩子(主人公)が何を感じるかということが大切でした」
生きているエネルギーに溢れたタイ

実際にタイに行って感じた日本との違い。なかでも一番印象的だったのは“色の鮮やかさ”だったという。
「花や緑が太陽の光に負けてないんです。“生きているぞ!”って主張していて、日本では絶対撮れない画ですね。住居、森、川が分け隔てないんです。生まれてから死ぬというサイクルは、人間も動物も自然も同じだということをこの作品の最終着地点にしたいなと思いました。撮影した村は日本から見たら裕福ではありませんが、人々はおおらかでちゃんとつながっている。日本はすべてが経済中心で、その中で生きていると命が疲れてしまう。一番伝えたかったことでもあります」
これまで見たことのない、女優・長谷川京子

「それまで長谷川さんに求められていたのは、感情の機微の前に、台本どおりにセリフを話してうまく演じることであったと思います。今回の撮影で体験したことは、彼女が女優として次のステップに進むきっかけになったのではないでしょうか」
タイで感じる日本の記憶
ときおり挿入される村上淳とのマッサージのシーン。今回唯一奈良で撮影されたものだが、そこにはどんな意味が込められているのだろうか。
「異国に行ったとき、ふと自分の日常を考えるときがある。本当に自分の大事なもの、大事だったものをおざなりして生きていたことに気づいたとき、彩子の場合は日本の記憶だったんですね。日本での自分のあり方を自分自身で問うていく、あのシーンはそういう作業の象徴でもあります」
「異国に行ったとき、ふと自分の日常を考えるときがある。本当に自分の大事なもの、大事だったものをおざなりして生きていたことに気づいたとき、彩子の場合は日本の記憶だったんですね。日本での自分のあり方を自分自身で問うていく、あのシーンはそういう作業の象徴でもあります」
彩子と一緒に混乱を共有してもらいたい

「彩子が異国で体験する“混乱”を共有してもらいたかったんです。字幕があるとつい読んじゃって映像を見ていないでしょ? 私、テレビ番組のテロップも大嫌いなんです」
言葉が通じないという壁があったからこそ、彩子は一生懸命自分の想いを伝えようとする。それはいまの私たちに一番欠けているものだ。
「情報社会の中で得る情報は情報であって経験ではないんです。身体を動かして、心を動かして得たものだけが自分の“経験”になる。だから、たまには彩子みたいに全てを投げ出して自分自身を飢えさせてみるのもいいと思いますよ(笑)」
故郷・奈良への思い

「なら国際映画祭」ではエグゼクティブディレクターを務めている河瀨監督。10月24日にはタイの新進アニメ作家のウィスット・ポンニミットさん(通称タムくん)を迎えてのプレイベントを開催。「タムくんあんまりしゃべらないから舞台にこたつでも用意して、家のような雰囲気にしようかな」と、嬉しそうに語る河瀨監督。これからの活動にも注目が集まりそうだ。
詳細は河瀨直美オフィシャルサイト
http://www.kawasenaomi.comへアクセス
河瀨監督最新作

河瀨監督最新作
「七夜待」2008年11月1日(土)公開
福岡ではソラリアシネマにて11/8(土)より公開
[STORY]
日本を旅立ちタイに降り立った彩子。しかし、ホテルに向かうはずのタクシーがたどり着いたのは混沌とした森の中。川のほとりでフランス人青年グレッグに出会った彩子は、彼が同居するタイ人母子の住む高床式の家に連れて行かれる。言葉が通じず戸惑う彩子だが、そこで受けた古式マッサージで心の安らぎを得ていく…。
監督:河瀨直美
出演:長谷川京子、グレゴワール・コラン、村上淳
配給:ファントム・フィルム
映画HP:http://www.nanayomachi.com