「鼓動」2010年4月18日
インド系女性作家ジュンパ・ラヒリ

ラヒリは、1967年ロンドン生まれ。両親ともカルカッタ出身で、幼くしてアメリカに渡っている。受賞作『停電の夜に』の邦訳は2000年8月にはタイミング良く新潮クレストブックスにて刊行されている。
ラヒリの小説世界は、インド系移民を主人公として、アメリカとインドの狭間に身を置く人々の日常の暮らしの悲喜劇を観察者の立場で、きめの細かな文体で描出する。
短編集の最後に収められている「三度目で最後の大陸」は、ラヒリ自身の両親の世代である移民たちへのオマージュだ。インド、イギリスそしてアメリカ。3つの大陸で生きてきた両親。彼らをモデルに、アポロ11号が月面に着陸した1969年のボストンを舞台に、イギリスからやってきた青年の下宿生活と遅れてカルカッタから来た若妻との生活を通じて、二人がアメリカになじんでゆく過程を描いている。移民男性の一人称の語りは、ストリーテリングの妙も手伝って、読みごたえのある感慨深いものになっている。
アジアからアメリカへの移民はいまや莫大な数に上るだろう。そして海を隔てた切ない思いもこれまた同じ数だけあるはずだ。(IK)