「鼓動」2010年5月12日
アルマの複眼

アルマとは、南米チリの標高5000メートルの「アタカマ高地」に設置される、波長の短いミリ波やサブミリ波を受信する電波望遠鏡である。その巨大な施設は直径12メートルと7メートルのアンテナ総数66台以上で構成されるという。いまや、天体観測は、光主体の観測から電波主体の観測に大きくシフトしつつある。アルマはその期待を担う革新的な電波望遠鏡なのだ。
ところで、アルマ望遠鏡完成予想図を見ると、やや誇張された図とはいえ、まるでトンボの複眼のように見える。あるいは、カンブリア紀の化石「三葉虫」の眼にも似ている。
「先カンブリア時代」に比べ、生物の種類・個体数が爆発的に増加したため「カンブリアの爆発」として知られる「カンブリア紀」。その時代に繁栄したのがほかならぬ「三葉虫」だ。
三葉虫は実は「複眼」を持っていた。5億年以上も前の三葉虫の化石には、光を認知する器官である複眼が残っていた。先カンブリア時代には、まだ眼を有した生物は登場していないと考えられるから、あるいは三葉虫は、地球で最初に眼を持ち光が映し出した世界を見たのかもしれない。生物の進化のドラマの中で、三葉虫の登場は進化のステージを一足飛びに飛躍させたともいえよう。
未知なる世界の新たな姿を望見するのを助けたのが「複眼」だったとしたら、アルマ電波望遠鏡もまた、未知の宇宙の姿を我々に見せてくれる大いなる「複眼」になるかもしれない。(IK)