「鼓動」2010年6月5日
夏野のファーブルたち

甲虫とは、鞘翅目に属する昆虫の総称で、コガネムシやホタルそしてカブトムシなどの類である。甲虫を語るとき嬉々として語った。彼もまたファーブルだったのだ。ファーブルの昆虫記の冒頭のフンコロガシの描写を身振り手振りで語って倦むことはなかった。
福岡県立美術館で「プチ・ファーブル」と呼ばれた熊田千佳慕(くまだちかぼ)さんの作品展がこの夏開催される(5月27日~7月11日)。
筆の穂先のみを使って昆虫や植物を超微細に描いたその作品は、リアルでかつ命の営みを写し取って、観るものを感動させずにおかない。
ファーブルは昆虫の様子を詩人の心と観察者の目で描いたが、熊田さんもまたファーブルになりきって、草原に寝そべり目線を低くしながら、フン玉作りの名人たちの動きを食い入るように観察し、毛の一本まで生き生きと描いている。
O君は、大学を卒業すると高校の生物の教師になった。高校では生物部の顧問だ。生徒の中にはきっと若きファーブルもいるに違いない。先輩ファーブルのO君は、いまでも若きファーブルたちと夏野を駆け巡っているようだ。(IK)