「鼓動」2010年6月7日
蛍

ホタルの光は、ルシフェリンという発光物質が酸化する際に発する熱を伴わない冷たい光だ。ホタルは、卵、幼虫、さなぎといずれの時期もこの物質を持っていて生涯にわたって光を放ち続けるという。
2008年のノーベル化学賞を受賞した下村脩さんの業績に、ウミホタルが有するウミホタルルシフェリンの結晶化があったが、ウミホタルルシフェリンとルシフェリンは、名前こそ似ているがまったく別物らしい。
ホタルといえば、『源氏物語』の中で、ホタルの光で女人の姿を照らし見ようとしたのは光源氏だった。若くして亡くなった夕顔の忘れ形見玉蔓を娘と称して屋敷に迎え入れるのだが、娘に対する以上の想いを抑えきれない。玉蔓はそんな源氏から逃れるようにして、源氏の弟の蛍の宮を部屋に招き入れる。すると、源氏は玉蔓の姿を宮に見せようと、用意していたたくさんのホタルを対面の場に放つ。ホタルの幻想的な光に照らし出された玉蔓。そのあまりの美しさに蛍の宮はすっかり心を奪われてしまう。
それにしても、源氏の悪ふざけとも言うべき好き者ぶり。はなはだ入り組んだ男の屈折した心理とも読める。(IK)