「鼓動」2010年8月28日
梨食む旅人

梨に関しての古い記述は『日本書紀』に出てくるという。
8月に入って、赤梨の早生品種「幸水」が八百屋の店先に並び始めた。
現在、栽培されている梨の品種のなかでは最大の作付けを誇っている。
梨は原産地は中国である。ずいぶん古くから栽培されていたのだろう。
紀元前6世紀から5世紀。日本がまだ縄文の時代にあった頃、大陸では孔子たちが旅を続けていた。かたや食べ物を巡って汲々としていた時代に、大陸では理想が語られ、人々を動かし、文字によって記録されていた。
乱れた時代にあって、孔子はあるべき人の生き方、政治のあり方を求めて諸国を旅した。
孔子一行衣服で赫(あか)い梨を拭き 飯島 晴子
場面は通りすがりの市場近くなのか、あるいは大河のほとりの船着場なのか、そんな空想も楽しい。そこには中国の大地を照らす光と渡りゆく風を想像したい。
赤い梨を手に取り、衣服で無造作に拭いている孔子たち一行の姿。
さすらう旅人たちの気ままさや心もとなさも、赤い梨に集約されているかのようだ。
想像力に満ちた大らかで気持ちのよい句である。
だれか、この句想をもって、大きな絵を描いてくれないだろうか。(IK)