「鼓動」2010年10月20日
ファツオーリ

栄冠は、誰が手にするのか。そして前回同様上位にアジア人の名前が連なるのか。
いずれにしろ、次のスターを夢見る若き挑戦者たちのしのぎを削る闘いが繰り広げられる。
ワルシャワで本選が行われているとき、福岡では前回コンクールの覇者ラファウ・ブレハッチのリサイタルが開催される(10月21日)。もちろんオール・ショパン・プログラムだ。
今回コンクールの公式ピアノとして、イタリアの「ファツオーリ」のピアノが初めて認定された。
スタインウェイ、ヤマハ、カワイに加わっての新規参入である。
「ファツオーリ」は、1981年創業であるから、まだ30年の歴史しかないが、独自の技術力で 世界的な評価が高まったピアノメーカーである。ただ、年間生産台数は、120台と極端に少ない。
日本のホールにも数台あるのみで、いまだその音色を聴いていない人の方が圧倒的に多い。
創業前年の1980年に最初のモデルを作り、87年には長さ308センチの最大モデル、いわゆる308モデルを完成し発表して話題をさらった。大音響の迫力とともに、その一方で、音色を変えずに音量を小さくする「第4ペダル」を装備している。通常のシフトペダルは、ハンマーを横にずらして1本か2本の弦を叩くが、ファツオーリの第4のペダルは、ハンマーを弦に近づけ、3本の弦を叩く。豊かでやわらかでそして透明な音が出るという関係者の声だ。
さらに、弦の下の響板は通常のスプルース(トウヒ)材ではなく、高価なヴァイオリンとして知られるストラディバリが好んだ赤トウヒ(フィエンメ渓谷産)が使われている。
門外漢にとっては、そう聞くだけで妙なる音を響かせそうな気がするから不思議だ。
ちなみに、創業者パオロ・ファツオーリの机の上には、「世界一高価なピアノ」の写真がある。
その写真のファツオーリ308は、特別な装飾を施した仕様で、ブルネイのスルタンが所有する高価なものだ。噂では75万ドルであるという。一体誰が普段弾いているのだろうか。(IK)