「鼓動」2010年10月23日
CDショップにて

彼の音楽を聴いたのは、彼が亡くなってからだ。知的で軽やかな演奏。陰影を浮きだたせたリリシズムあふれる情感。特に、天才ベーシスト、スコット・ラファロの加わったピアノトリオの2枚のアルバムは20世紀のジャズシーンを代表する名盤中の名盤だ。
惜しくもスコットは25歳の若さで不慮の死を遂げるが、ビルのピアノとスコットのベースの相性は抜群だった。
廉価版のCDの1枚を手に取ってキャッシャーに行くと、頭上のモニターには、K(韓国)ポップの人気アイドルグループ「少女時代」のプロモーションビデオが流れていた。「少女時代」のほかにも同じく女性グループ「KARA」や男性グループの「BIGBANG」の名前も娘から聞いたことがある。
いまや、Kポップの勢いは、韓国にとどまらず、アジアに広く受け入れられている。
タイやカンボジアでも一大ブームを起こしていると先日新聞でも伝えていた。
近年大型商業誌施設が立ち並び始めた、カンボジアの首都プノンペンでは、ヒップホップダンスを披露する特設ステージには若者が殺到しているらしい。音楽・ファッションなどの若者文化の怒涛のごとき流入は、ポルポト政権を知る年代にとっては、隔世の感があるだろう。
若者が元気であるという声と、享楽に染まってゆく若者たちに不安感を抱く声の双方が聞こえるようだ。流行を追い求める若者に対して伝統的な価値の崩壊を懸念する親の世代。だが、価値の多様化の急速な流れは止められないのは、世の常のような気さえする。
アップテンポの音楽とスタイリッシュなダンスが繰り返し映し出されるモニターの画面。
アジアの若者を熱狂させる音楽を聴きながら、半世紀前の名盤CDの入ったタワーレコードの袋を下げて、フロアを後にした。(HR)