「鼓動」2010年10月28日
となりのトロロ

亡くなった父は、その昔、秋に山芋のありかを発見すると、蔓を残して下草を刈り、そこに麦の種子を数粒蒔いたそうだ。麦が芽をだし、青く葉を伸ばすころには、あたりは冬枯れて場所も見つけやすく、また作業もしやすいと話していたのを思い出す。
掘った山芋は持ち帰り、すりおろし、卵黄を加え、だし汁で薄める。
義理の母は、このトロロ汁がとにもかくにも大好きで、憚りを忘れてズルズルと啜る。夕食の食卓でも、あっぱれな食べっぷりで、掘ってきた義父もそれが嬉しかったようだ。
昔、冷蔵庫に残ったトロロが気になってどうしても食べたくなった母は、家人が寝静まった後ひそかに食べたというエピソードの持ち主だ。好物に対する貪欲な食欲はどこか野性的である。
野趣あふれるトロロ汁。上品に食べようなんて構えなくてもよい。
こちらも遠慮なくズルズルとやる。母でなくてもトロロ汁というものは旨いものだと思う。(HR)