「鼓動」2010年12月8日
ワサビ

山葵(わさび)ありて俗ならしめず辛き物 炭大祇
大祇は江戸に生まれたが、京に上り、禅堂生活の後一転して、京の島原遊郭の中に「不夜庵」を結んだ。妓楼桔梗屋の主人が後援者で、遊女たちに俳諧や手習いなどを教えたという。揚句は、さわやかなワサビをきかせると、ただ辛いだけにとどまらず、瞬時脱俗の味わいになるぞ、と言う。大祇は、同時代の蕪村同様、俳句で想像世界に遊ぶ名手であると同時に、酒を愛し、社交的で粋な人物だったらしい。
ワサビは日本特産だが、寿司や刺身の世界的な普及で英語、フランス語、台湾語、広東語などとそのまま「wasabi」という発音で借用されているそうだ。外国人には苦手と思いきや、そうでもなく、洋の東西を問わず、受け入れられている。
ところが、本家の日本ではワサビ抜きの寿司を注文する若者が増えているという。辛いものは好んでもワサビは苦手らしい。味覚の変化とまでいかないにしても、鼻から頭へ抜けるツンとした刺激に慣れていないのだろうか。中年世代から見るとチョッと解せない。
さわやかな薄緑と清涼な香り。これがないと刺身も蕎麦も始まらないと思うのだが。(HR)