「鼓動」2010年12月24日
博多座の文楽公演

昨年の博多座公演は、『菅原伝授手習鑑』の三段目と四段目のはじめの天拝山の段だった。博多座には、04年の初回の公演の時にも、寺子屋の段がかかっている。三段目の桜丸の切腹の場面、親子の情、夫婦の情を、七代目竹本住太夫が絶品の芸で切々と聞かせてくれた。続く四段目は、ご当地福岡ではなじみの天拝山の段。
「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」
太宰府に流された菅原道真(菅承相)は、ある夜、都の座敷の庭にあった梅を思い出して、この歌を詠み、しばしまどろんでいると、そこへ美しい童子が現れ、草木でさえも情を受けた主を慕う。その証を安楽寺に詣でて、しかとご覧なさいと告げる。
翌朝、黒牛に乗って安楽寺に出かけると、観音堂の前に、梅の木が夜のうちに生え出ている。「来て見てびっくり、この木枝ぶり花の匂ひ、佐太のお下屋敷に預かっておりました、それじゃそれじゃ、その梅でござりまする」。お供の白太夫は大いに驚く。都から承相配流の地太宰府へ飛んできた飛び梅伝説を、浄瑠璃太夫はおもしろおかしく説いて聞かせる。
ところが、そこへ政敵藤原時平が差し向けた刺客が現れる。捕えた刺客の口から、時平が帝を葬って王位に就こうと企んでいることを知らされた菅承相。その柔和な顔はたちまち憤怒の形相へと変わる。今までこらえにこらえてきた怒りが、ついに爆発する。承相は飛び梅の一枝を折り取って、刺客の首をちょうと打つと、首はぽおんと高く舞い上がる。いまや、火花を吐き雷神と化した承相が天拝山へと駆けあがれば、稲妻と雷鳴の中、幕が閉じる。
時に生々しいほどの人形の動き。文楽の面白さをたっぷりと堪能した博多座だった。(HR)