「鼓動」2010年12月26日
PLUTO その3

1992年8月30日。一人の若いベトナム人天文学者が、海王星のはるか向こうに23等という微かな未知の天体がゆっくりと動いていたのを見出した。「1992QB1」と名付けられたこの天体は、予想はされていたものの、いまだ誰も発見していない「カイパーベルト天体」だった。
カイパーベルトは、太陽系の外縁部に、彗星の巣の存在を予想したアメリカの天文学者カイバーが、1950年代に提唱した仮説である。より正確には、アイルランドの天文学者エッジワースの名をも重ね「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる。海王星の軌道よりも外側に、小天体が、ドーナツ状に集まった領域が存在し、その領域から、200年以下の短い周期の彗星が供給されているのではないかと言われている。
ジェーン・ルーは、1963年、ベトナム戦争さなかのサイゴン、今のホーチミン市に生まれている。1975年4月、解放軍がサイゴンに進攻したとき、小学生の彼女とその家族は着の身着のままで国外に脱出し、アメリカの南カリフォルニアにたどり着く。ルーはやがて、奨学金を得て、スタンフォード大学で物理学を学ぶようになる。夏休みに、惑星探査機で有名なジェット推進研究所でのアルバイトをきっかけに、彼女は、天文学、とりわけ太陽系天文学にとりつかれる。 ルーは卒業後、今度はマサセッチュー工科大学などで天文学を学んでいる。
1987年に、ルーは、ハワイ、マウナケア山頂にある口径2.2メートルの望遠鏡で新たな太陽系天体の捜索を始めた。初めは写真乾板を使っていたが、途中から光を電気信号に変える装置を採用した。これで、コンピューターへつないで調べるのも楽になった。が、何も見つからず5年間が過ぎた。
そして、1992年8月30日の夜を迎えている。 この日の発見を皮切りに、これまでに約1000個の同様な天体が見つかっている。こうしたあらたな発見は、Plutoを巡る環境を変えてゆく。もとより、Plutoの直径は、2.280㎞と地球の月よりも小さく、質量は地球の0.0023倍しかなかった。そのうえ、2005年の発見時、第10惑星かとも騒がれたエリスは、直径2400㎞でPlutoよりも大きかった。こうした外縁天体の発見によって、惑星そのものの定義が見直される契機となった。
冥王星を含むベルト状の領域の無数の小天体の存在は、冥王星もまた、このカイパーベルト天体として取り扱うべきだという考え方が強まった。そして現在では、こうした考えのもとに、惑星、小惑星の再分類が行われ、海王星よりも遠くにある小惑星を、エッジワース・カイパーベルト天体と呼び、冥王星も同天体に属するものとして位置づけられ、新たに設けられたカテゴリーである「準惑星」第1号となった。準惑星は、現在、冥王星、ケレス(火星と木星との間にある小惑星)、エリスなど5個であるが、今後の発見によって増え続けるとみられている。(IK)