「鼓動」2010年12月27日
大根

先日、朝日俳壇(12月20日付)の句の中に、次の投稿句があって、思わず笑ってしまった。
大根の裸のマハのごとまぶし 酒井 忠正
「裸のマハ」というのは、ゴヤの名画である。18世紀末に描かれた絵には、裸体の女性が寝台の上で横たわり、まるで観る者を見つめるように描かれている。カソリックの国スペインでは、物議をかもし、1901年まで、およそ100年の間、プラド美術館に秘かに保管されていたというエピソードが残っている。作者の目の前にあるのは、そのマハのように横たわる大根。丸々と太った白くつやのある大根は、確かに肉感的だ。
大根というと、中国が原産と思っていたら、どうやら地中海が原産であるらしい。ものの本によるとエジプトのピラミッド建設に駆り出された人々には、ニンニクと玉ねぎと大根が支給されたようだ。この古代大根がヨーロッパでラディッシュとなり、アジアに伝わって、大根となった。
ラディッシュは二十日大根のことである。『ガープの世界』で知られるジョン・アービングの処女作『熊を放つ』は、ウィーンを舞台にしていたが、登場人物のグラフという若者がラディッシュに塩を振って食べる場面が何度も出てきたのを覚えている。 ヨーロッパではラディッシュはポピュラーな根菜なのだろう。
アジアの東端日本では、大根は多様な品種が生み出される。万病の薬として重宝され、その一方で食材として広く普及した。よほど日本人と大根は相性が良かったようだ。
そうそう、ぶつ切りにした鰤のあらと大根とを炊き合わせる「鰤大根」も忘れてはいけなかった。何時間もぐつぐつと煮込んだ鰤大根のうまさよ。これって、やっぱりおふくろの味だよなぁ。(IK)