「鼓動」2010年5月10日
怪優ソン・ガンホ

彼が出演するDVDを何本か見たが、なかでも『殺人の追憶』(2003年)はリアルな映像美の迫力と合わせて、ほのかに笑いを誘うソンの好演も印象的だった。
映画は、韓国で実際に起きた女性連続殺人事件を題材にして、田園の広がる田舎町を舞台に、事件を追う刑事たちの見えない相手との苦闘を描いている。
残忍で猟奇的な連続殺人事件。ソウルの本庁から派遣された刑事による緻密な理論捜査と対立しながら、ソン・ガンホらの地元刑事は地を這うような流儀で走り回る。が、事件はますます陰鬱な様相を深めてゆく。執念深い捜査を続け、ついに容疑者に詰め寄るが、犯行の決定的な証拠はない。容疑者は何も語らないまま、トンネルの闇の中に姿を隠す。
事件は未解決のまま20年が過ぎようとしていた。刑事を辞めたソン・カンホが、久しぶりに事件現場に立ち寄ると、通りかかった少女から、先日ある男がここに来て「昔ここでしたことを思い出しているのだ」と言っていたことを聞いて驚く。どんな男だったかと尋ねるソンに、少女は「普通の顔だった」と答える。不気味な余韻を残すラストだった。
陰惨な事件を扱っているものの、鮮烈な映像美と、ソンの醸し出すコミカルで存在感ある熱演が、作品を上乗なものに仕上げていた。
さて、韓国で大ヒットした、ソンの最近作『義兄弟』の日本での公開はいつになるのだろうか。(IK)