「鼓動」2010年11月12日
ジェットストリーム

聞きながら、未だ見ぬ異国への夜間飛行の旅を想像したのは学生時代である。深夜12時に始まるオープニングの「ミスター・ロンリー」はかつてのリスナーたちにとっても印象深い曲であろう。
ジェットストリーム(ジェット気流)は、対流圏とその外側の成層圏の境界面近くを吹く偏西風で、狭い領域を噴流のように強く流れる。日本の冬は太平洋側では比較的天気が良いが、アジア大陸から吹き付けるジェット気流は天文家にとっては困りものである。ジェット気流は空気の乱れを大きくする。空気の乱れは遠い星からの光を乱す。星たちのおしゃべりするようなきらめきの原因であるジェットストリームに天文学者は頭を悩ましていた。
最高性能の天体望遠鏡がハワイの標高4200メートルのマナウケア山頂に建設する計画が持ち上がったのは、どうやらこのためらしい。この地はジェット気流もなく、山頂は空気が薄い。マナウケア山頂で見るおびただしい数の星たちは、きらめくことなく、静かにじっとしていた。
1999年、ハワイ島マウナケアの山頂に「すばる望遠鏡」が完成した。口径8.2メートルの集光鏡は世界最大級。最先端の光学赤外線望遠鏡である。
「すばる」という名前は、公募によって採用されている。冬の宵に見える「すばる」は古くから親しみ深いものだった。10世紀末の清少納言も「星はすばる」と書いていた。
晴れ渡った冬の夜空に浮かぶ星たちのきらめき。そんな日は、高度1万メートルの上空をジェットストリームの強い西風が吹き抜けているのだ。(IK)