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[Kobori のバンコクレポート] 【海外取材こぼれ話】驚きのダブルベッド寝台バス
日本にいたら絶対に想像や想定もできない信じがたい状況の出現
海外で取材をしている時に遭遇する「えっ、本当に?」という驚愕の話題シリーズ。今回は1月下旬に経験したカンボジアでの出来事をお伝えしよう。日本にいたら絶対に想像や想定もできない信じがたい状況の出現に、最後はただただ笑うしかなかった。

▲メコン川は昔も今もカンボジアの大動脈だ。プノンペンで。
カンボジアへの取材は、タイ国内での仕事の日程が押す中、0泊2日の強行スケジュールで行うこととした。1月下旬の某日、早朝のフライトでプノンペンまで飛んだ。原稿料で生計を立てている身としては少しでも取材費は抑制しておかなければならない。格安航空会社(LCC)の早朝深夜便が記者(筆者)の取材における貴重な交通手段となっていた。
プノンペンでアライバルビザ(到着ビザ)を取得して入国。ビザ代金30米ドルは痛い出費となった。空港からは一般の路線バスを利用。目的地に到着後は直ちに取材に入り、2時間も経たずしてプノンペンでの予定は終了した。

▲タイとの国境ポイペトの朝。朝日がまぶしい。
次の目的地はタイとの国境の街ポイペト。プノンペンから約400キロ離れた当地では現在、70数年ぶりとなるタイに向けた国際鉄道が建設中。工業団地の開発などもあって活況に沸いている。ただ、インフラ整備は十分ではなく、幹線道路でも土煙が立つほどという事前情報をつかんでいた。
カンボジアでは名の知れた「Virak」というバス会社のチケットを申し込もうと、メコン川沿いの営業所を訪ねた。窓口の女性職員に、「ポイペトまでの深夜バス一人」と告げると、女性は「どのバスにしますか?」と壁に貼られた一覧を示して言った。

▲カンボジアでは人気のVirak社の寝台バス。これに乗車した。
早朝4時半から午前7時半到着までと数本のバスがあった。陽が昇る前に到着してもかえって手持ち無沙汰になるだろうと、6時少し前に到着する便を選んだ。すると、今度は座席の一覧表を示して「どこにする?」「君ならどこを選ぶ?」と切り返し、アドバイスのとおり運転席のすぐ後ろを選ぶことにした。片道一人10米ドル。
午後8時が出発時刻だった。記者は20分前には車に乗り込み身支度を調えた。なるほど「寝台バス」とはよく言ったもので、細い中央通路の両側にカーテンで仕切った上下2段のベッド(席ではない)が車両の最後尾まで続いていた。定員は40人とあった。各ベッドには小さな枕とビニールのようなブランケットが複数枚備え付けてあった。本来なら、ここで気がつくべきであった。

▲バスは地域住民の貴重な足。多量の物資も運ぶ。
発車までまだしばらくある。トイレを済ましておこうといったんバスを降り、近くの有料トイレを1,000リエル(約28円)で利用、バスに戻った。ところが、何とベッドの上に誰か人が座っている。暗闇の中を目を凝らしてみると、そこにいるのはカンボジア人の若い男だと分かった。
「そこ、俺の席(ベッド)だ。どいてくれ。」と言うが、薄ら笑い(のように見えた)を浮かべるだけで全く動じない。ひるむ様子もなく、全くのどこ吹く風だ。その時、ふと、嫌な一つの見立てが記者の脳裏を横切った。「このバス、ひょっとしたら全席ダブルベッドではなかろうか!」
慌てて他のベッドに目をやった。確かにそうだった。親子水入らずで寝入っている姿や、カップルでいちゃいちゃしている男女が目に飛び込んできた。間違いない。このバスは二人で一つのベッド。定員40人とはそういうことだったんだ。

▲寝台バスの車内。この狭い空間に二人が横になる。
ベッドは縦がせいぜい1メートル60センチ、幅が80センチほど。小柄な男性二人なら並んで寝ることができようが、やや身長のある人なら足を折って横にならないと、とても二人は収容できない。それでも肩や足は常時触れ合い、耳元で相手の呼吸が聞こえるほどだった。
こうして始まった名前も何も知らぬカンボジア人男とのベッド旅行。ベッドにはただでさえ南京虫がいるかもしれないのに、そのうえ言葉も通じぬ男と9時間もここで肩を寄せ合わなくてはならなかった。しかも男の寝相は悪く、時折、寝返りを打っては、片足がこちらの身体に乗ってくる。その度にパンチを食らわせたい衝動を抑えるのが精一杯だった。だが、そう考えたのも束の間、昼の取材で疲れた身体が睡魔に勝つことはなかった。
バスは途中、シェムリアップで停車した。ラッキーなことに男が降りていくではないか。だが、男は一瞥もくれずに終始無言。嬉しさの反面、去ろうとする男に一言、言いたくもなった。「夜をともにしておきながら、挨拶もなしかよ!」

▲ポイペト側出国窓口の様子。陸路の国境出国は趣深い。
バスはその後、バンテイメンチェイ州の州都シソポンを通過して、いよいよ国境の街ポイペトに到着。時刻は予定よりも15分ほど遅れただけだった。荷物を背負い、土埃の舞う大地に降りた。さあ、ここからは国境取材。その後、タイに入りバンコクへの陸路移動だ。あの男とはもう会うこともないだろう。名前くらい聞いておくべきだったと悔やんだ。

カンボジアへの取材は、タイ国内での仕事の日程が押す中、0泊2日の強行スケジュールで行うこととした。1月下旬の某日、早朝のフライトでプノンペンまで飛んだ。原稿料で生計を立てている身としては少しでも取材費は抑制しておかなければならない。格安航空会社(LCC)の早朝深夜便が記者(筆者)の取材における貴重な交通手段となっていた。
プノンペンでアライバルビザ(到着ビザ)を取得して入国。ビザ代金30米ドルは痛い出費となった。空港からは一般の路線バスを利用。目的地に到着後は直ちに取材に入り、2時間も経たずしてプノンペンでの予定は終了した。

次の目的地はタイとの国境の街ポイペト。プノンペンから約400キロ離れた当地では現在、70数年ぶりとなるタイに向けた国際鉄道が建設中。工業団地の開発などもあって活況に沸いている。ただ、インフラ整備は十分ではなく、幹線道路でも土煙が立つほどという事前情報をつかんでいた。
カンボジアでは名の知れた「Virak」というバス会社のチケットを申し込もうと、メコン川沿いの営業所を訪ねた。窓口の女性職員に、「ポイペトまでの深夜バス一人」と告げると、女性は「どのバスにしますか?」と壁に貼られた一覧を示して言った。

早朝4時半から午前7時半到着までと数本のバスがあった。陽が昇る前に到着してもかえって手持ち無沙汰になるだろうと、6時少し前に到着する便を選んだ。すると、今度は座席の一覧表を示して「どこにする?」「君ならどこを選ぶ?」と切り返し、アドバイスのとおり運転席のすぐ後ろを選ぶことにした。片道一人10米ドル。
午後8時が出発時刻だった。記者は20分前には車に乗り込み身支度を調えた。なるほど「寝台バス」とはよく言ったもので、細い中央通路の両側にカーテンで仕切った上下2段のベッド(席ではない)が車両の最後尾まで続いていた。定員は40人とあった。各ベッドには小さな枕とビニールのようなブランケットが複数枚備え付けてあった。本来なら、ここで気がつくべきであった。

発車までまだしばらくある。トイレを済ましておこうといったんバスを降り、近くの有料トイレを1,000リエル(約28円)で利用、バスに戻った。ところが、何とベッドの上に誰か人が座っている。暗闇の中を目を凝らしてみると、そこにいるのはカンボジア人の若い男だと分かった。
「そこ、俺の席(ベッド)だ。どいてくれ。」と言うが、薄ら笑い(のように見えた)を浮かべるだけで全く動じない。ひるむ様子もなく、全くのどこ吹く風だ。その時、ふと、嫌な一つの見立てが記者の脳裏を横切った。「このバス、ひょっとしたら全席ダブルベッドではなかろうか!」
慌てて他のベッドに目をやった。確かにそうだった。親子水入らずで寝入っている姿や、カップルでいちゃいちゃしている男女が目に飛び込んできた。間違いない。このバスは二人で一つのベッド。定員40人とはそういうことだったんだ。

ベッドは縦がせいぜい1メートル60センチ、幅が80センチほど。小柄な男性二人なら並んで寝ることができようが、やや身長のある人なら足を折って横にならないと、とても二人は収容できない。それでも肩や足は常時触れ合い、耳元で相手の呼吸が聞こえるほどだった。
こうして始まった名前も何も知らぬカンボジア人男とのベッド旅行。ベッドにはただでさえ南京虫がいるかもしれないのに、そのうえ言葉も通じぬ男と9時間もここで肩を寄せ合わなくてはならなかった。しかも男の寝相は悪く、時折、寝返りを打っては、片足がこちらの身体に乗ってくる。その度にパンチを食らわせたい衝動を抑えるのが精一杯だった。だが、そう考えたのも束の間、昼の取材で疲れた身体が睡魔に勝つことはなかった。
バスは途中、シェムリアップで停車した。ラッキーなことに男が降りていくではないか。だが、男は一瞥もくれずに終始無言。嬉しさの反面、去ろうとする男に一言、言いたくもなった。「夜をともにしておきながら、挨拶もなしかよ!」

バスはその後、バンテイメンチェイ州の州都シソポンを通過して、いよいよ国境の街ポイペトに到着。時刻は予定よりも15分ほど遅れただけだった。荷物を背負い、土埃の舞う大地に降りた。さあ、ここからは国境取材。その後、タイに入りバンコクへの陸路移動だ。あの男とはもう会うこともないだろう。名前くらい聞いておくべきだったと悔やんだ。
海外情報員 Kobori 氏 プロフィール
