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[Kobori のバンコクレポート] タイにある「和太鼓」を作る村
三人の姉弟は年間数百個以上の太鼓を生産し、出荷している。

タイ中部アーントーン県。古都アユタヤに北隣にあるこの小県に、日本の和太鼓にも似た伝統太鼓をつくる村がある。村名はタイ語で「หมู่บ้านทำกลอง (ムーバーン・タムクローング)」。直訳すれば、「太鼓を作る集落」となる。目立った標識などはなく、迷い込みでもしなければ、なかなかたどり着けない幻の村。乾季の某日、彼の地を訪ねた。

北部ナコーンサワンへ通じる主要道路・国道32号線を、起点となるアユタヤ南端から北進。約50キロの地点にある国道329号線との交差点を左折、さらに15キロほど進んだあたりに村の玄関口がある。高さ7~8メートルはあろうかというゲートには、「ようこそ国際太鼓都市へ」のアーケード。だが、それ以外には何も見あたらない過疎の村。路地を真っ直ぐに進んでいく。

ほどなく、伝統太鼓を作る工房があちこちに見えてきた。祭りの時期や出荷の時期を過ぎているためか、観光客を含め人通りは少ないが、それでも所々の工房ではせっせと太鼓づくりに励む姿が。そのうちの一つ、この道40年というウイさん (56) の自宅兼工房の門を叩いた。

ウイさんはちょうど、直径1メートルはあろうかという巨木から大型の太鼓の枠を削り出そうとしていた。「何の木ですか?」と尋ねてみたが、聞いたこともない名前だった。成長は早いらしく熱帯雨林特有の巨木なのかもしれない。その幹から太鼓の枠を削り出し、両側に動物の皮を張って、最も大きなサイズの重低音の太鼓が完成するのだという。

隣接する作業場では、ウイさんの上の姉ソムさん(65)が中サイズの太鼓づくりに精を出していた。竹の皮を編み込み、一つ一つ形を整える。熱帯の竹は背丈も大きく、皮も豊富に採れる。器用に編んでいく様を見て、これぞ伝統の職人技と感嘆した。

また、その傍らでは下の姉のミンさん (63) が完成品の小太鼓から余分な皮と突起物 (バリ) を取る作業に励んでいた。皮を張り、ビスで留め、仕上げのバリ取り作業。全てが手作業だ。「近頃は目が良く見えなくなってきてね。半分以上は勘よ」と笑っていた。

三人の姉弟はこうして年間数百個の太鼓を生産し、出荷している。近年は伝統工芸品としての価値も認められ、国内向けのほか中国などにも輸出され注文が増えるようになったが、生産工程は昔のまま。増産に向けた特別な対策は考えていないという。「昔から、この方法で太鼓を作っているの。この村の太鼓は音が良いと評判なのよ。日本にも輸出されているかもしれないわね。」とソムさん。機械化に頼らない素朴な職人の村の原風景を見た思いがした。
海外情報員 Kobori 氏 プロフィール
