[愛魂 vol.31] 神山健治 ~「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズの監督が語る日本アニメの可能性~(2/2)
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押井監督は心の師

神山:アニメーションは、絵で表現してしまう事によって、今描かれている事以外の情報を描いていくっていうのは実は苦手なジャンルではあるんですよ。語られているセリフの裏の感情とか情景を表現するのは実写の方が得意だとされていた中で、表で流れている事とは別の裏側に流れているもの、押井監督は“構造”と呼んでましたが、そういった演出を初めてしたのが押井監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」で、それにすごく感銘を受けました。政治的なテーマをアニメに持ち込むというのも押井監督が最初にやった事だと思います。アニメーションでも本格的な映画を作る事ができるんだという事を示してくれたのが押井監督でした。初めて押井監督とお会いした時に、それまでインタビュー記事や作品を通して推測していた僕なりの押井監督作品に対する考え方だったり方法論についてちょっと遠まわしに質問したんですよ(笑)監督もそういった事を質問された事があまりなかったみたいでその時色々と答え合わせというか、教えてもらって、それが僕にとって押井監督から直接レクチャーを受けた唯一の瞬間だったんです。実は押井監督から演出術を習ったわけでもなく、押井監督作品のチームに入った事もないんですよ。僕は押井監督を心の師と呼んでいて、何度かお話させていただく機会の中で投げかけた質問に答えてもらう事でなんとなく答え合わせをしている感じです。
ab:押井監督は神山監督について「こんなにすごくなるんだったら早めに潰しておくべきだった」とおっしゃっていたようですが?
神山:はははは(笑)これは光栄ですね。これ以上の褒め言葉はないです。
ab:今監督が注目している人は?
神山:そうですね~。作家の森見登美彦さんかな。僕らの世代とはちょっと違う感覚を持ったユニークな作品で、東のエデンなんかは彼の影響を受けています。
アニメは日本人が作ることができる洋画

神山:簡単に海を越えていくというのはアニメや漫画の特徴で、僕たちの世代ではよく「アニメは日本人が作れる洋画である」と言われていました。アニメには外国人が登場してきても大丈夫でしょ?でも日本人が欧米人を演じるとなるとやっぱり違和感がありますよね。そういう事を抜きにしてできるアニメというのはすごくいい表現方法なんだと思います。「東のエデン」は日本人の若者が抱えている問題がテーマなので、正直なところ、海外ではうけないと思っていました。でも以前アメリカに行った時に、まだ発売されていないにも関わらずエデンのコスプレをして集まっている人たちがいて。日本の抱える問題ではあるんだけど、アメリカの若者、特にマイノリティーが抱える問題にもどこか似ている部分があって、共感を持ってくれているんだと感じました。中国では子ども向けのアニメしか見ることができない中で、深く考えさせられるテーマを持ったアニメだという点が、エデンはとても興味深かったという話を聞きました。日本人が演じるのとは違って、アニメや漫画にすることは、より共感を抱きやすく、作品に入りやすいという利点はあると思います。今後はもっと海外の事を意識した作品作りというのも考えていきたいと思っています。僕たちはアニメという本当に強い武器を持っていたんだと改めて感じています。
ab:日本やアジアの若者に向けてメッセージをお願いします。
神山:最近中国に行って、彼らは僕たちの事をとても知ってくれていてるのに、僕たちは彼らの事をあまり知らないという事を感じました。これは特に日本人に伝えたいんだけど、僕たちはもっと海外の事を知らないといけない。そのうえで、アジアの人たちにはさらに日本に興味を持ってもらえると嬉しいですね。今の若者たちが時代を担っていく時代が必ず来ます。その時には、お互いの事をもっと分かり合える関係が作れているといいなと思いますし、その架け橋にアニメがなるのであれば、これほど充実した仕事はないなと思います。
[INFO]
[PROFILE]
神山健治 / アニメーション監督
■略歴
1966年3月20日生まれ。高校在学中から自主アニメーションの制作を始める。
埼玉県秩父農工高等学校食品科学課卒業後も自主アニメーションの制作を続け、1985年スタジオ風雅に入社。
劇場作品「AKIRA」「魔女の宅急便」等に背景として参加。1996年、プロダクションI.Gにて押井守が主催した押井塾に参加。同時期に劇場作品「人狼」演出「BLOOD」脚本、「ミニパト」監督と着実に実績を積み上げ、TV「攻殻機動 STAND ALONE COMPLEX」,「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」を監督。またキャラクター原案を羽海野チカが務めた「東のエデン」の原作・監督を務める。2011年3月に「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SOLID STATE SOCIETY 3D」が公開された。
■Web Site
映画『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SOLID STATE SOCIETY 3D』公式サイト
http://www.ph9.jp
神山健治 / アニメーション監督
■略歴
1966年3月20日生まれ。高校在学中から自主アニメーションの制作を始める。
埼玉県秩父農工高等学校食品科学課卒業後も自主アニメーションの制作を続け、1985年スタジオ風雅に入社。
劇場作品「AKIRA」「魔女の宅急便」等に背景として参加。1996年、プロダクションI.Gにて押井守が主催した押井塾に参加。同時期に劇場作品「人狼」演出「BLOOD」脚本、「ミニパト」監督と着実に実績を積み上げ、TV「攻殻機動 STAND ALONE COMPLEX」,「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」を監督。またキャラクター原案を羽海野チカが務めた「東のエデン」の原作・監督を務める。2011年3月に「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SOLID STATE SOCIETY 3D」が公開された。
■Web Site
映画『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SOLID STATE SOCIETY 3D』公式サイト
http://www.ph9.jp
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