少女漫画界の巨匠、一条ゆかり先生インタビュー
「金持ちと貧乏な女の子の、同じ土俵での競い合いを描きたかった」
『NANA』『タイヨウのうた』に続く、音楽を軸とした新たな青春サクセスストーリー映画『プライド』がいよいよ公開される! 金持ちの家に生まれ、美貌と才能に恵まれた麻見 史緒と、酒びたりの母を持つ貧乏な緑川 萌。相反した世界に生きてきたふたりは「オペラ歌手」という共通の夢によって互いに引き寄せられ、ライバルとして熾烈なバトルを繰り広げる。原作は、『有閑倶楽部』のTVドラマ化も話題になった日本少女漫画界の巨匠、一条ゆかりの『プライド』。2008年に漫画家デビュー40周年を迎えられた一条先生に、『プライド』で描きたかった想いなどを聞いた。

あくまで豪華に!

「“ オペラ”が舞台なので、豪華さというのは欠かせないです。でもお昼の連続ドラマなので、あまり豪華にはできないとのこと。残念ながらお断りしました。だから映画化は素直に嬉しかったです。とにかくお金使ってくれ、貧乏くさくしないでほしいと、それだけは頼みました(笑)」
原作者としてのこだわりとは?

「史緒役には、演技力は問わないから、ボディがあって、ハッタリがきいて、品があって、美人な人をお願いしました。オペラですから、体の薄い人はダメなんですよね。若い女優さんは体が薄い人ばかりなので、探すのは難しいだろうと思っていましたが、ステファニーさんに出会えて本当によかったです。
萌は、演技力のある人をと思っていました。小悪魔のような女のコですから、そこをうまく演じられないと、ただ反感を買ってしまうだけですから。監督に『デスノート』の妹役をやった女優ですと満島ひかりさんの写真を見せられて、ピンときました。会うと、沖縄出身の女のコらしく、気合の入ったコだなと。
というのも、普通の女のコは「史緒は理解できる。でも萌ちゃんはちょっと……」と言うんですよ。私に言わせれば、女子ならみんな萌のようなことは思っている!と。だから「萌ちゃんのことは理解できない」なんて言われると、「図々しい! あなたは自分のことを誤解している!」(笑)と思っていたわけです。
でもひかりさんは「萌はまるで自分を見ているようです」と言ったんですよ。さらには、完成披露試写会にひかりさんの弟さんが来ていたんですけど、「普段のお姉ちゃんを見ているようだった!」と(笑)。及川光博さん、渡辺大さん、高島礼子さんも含め、満足のいくキャスティングでした」
一方、長大な物語を2時間という枠に収めねばならない以上、ストーリー展開にはあまり執着しなかったそうだ。
「マンガが、映画やテレビという媒体で描かれるときに、原作とは違う世界や物語になることは理解していますし、それでいいと思っています。ただひとつだけどうしても譲れなかったことがあって、それは全員の性格を変えないでほしいということでした。
最初にできた脚本は、苦労なさって書いたと思うのですが、少しつじつまが合っていないところがあったので、私が手を入れています。
まあ、テレビ化、映画化というものは、大事な娘を嫁に出すようなもので、可愛がってくださればそれでいいんです。迫害されていたら「今すぐ戻ってこい!」と思いますけれどね(笑)」
オペラという題材を描こうと思った理由

「最初は貧乏と金持ちが、金持ちのエリアで闘うという話が描きたかったんです。でもバレエはすでに金持ちだけの世界ではないし、だったら乗馬かオペラだなと。でも乗馬だと、貧乏な側が「あの馬が欲しい」と思うとか、ちょっと話が露骨でしょう? 馬が骨折したり死んだりするシーンも描きたくないし、それに乗馬の最高峰ってオリンピックなんですよね。それってあまりにスポーツマンシップで正々堂々としすぎている。
私はもっとプロの世界をエンタテインメントとして描きたいと思ったんです。どういうひどいことをしようがされようが、「売れたもの勝ち」という(笑)、そんな世界を描きたかった。のし上がるために、いかに体張って頑張れるか。少々卑怯でも、夢を勝ち取るためにどこまでやれるか。オペラしかないと思ったんですよね」
実際にオペラの世界を描くようになってからも、オペラに対する気持はあまり変わらない。
「昔は2、30分で寝ていたのが、寝なくなったくらい(笑)。でも、耳が肥えたのか、上手い下手はわかるようになりました。
昔からマリア・カラスだけは好きだったんですよ。ひどい逆境でも屈せずに「売れるオペラ」を追求していった人でしょう。何かの映画で、「マリア・カラスじゃあるまいし、そんなワガママは許されない」という台詞があって、「ワガママ」の代名詞になるところもカッコいいなと。オペラという瀟洒(しょうしゃ)な世界には興味ないけれど、マリア・カラスの話のような、人間くさい部分は好きなんでしょうね。歌舞伎にも通じているおもしろさだと思うし。あと、好き過ぎないから描けるという部分はあるんです。
40年マンガを描き続けられた原動力とは?

「とても飽きっぽいんですよ。ずっとやっていると飽きちゃう。ほら、釣りって短気じゃないと上手にならないでしょう。釣れないならルアーを変えたり、ポイントを変えたりする。あれと一緒で、私も飽きないですむ方法をいつも探しているんです。たとえば主人公を外国に行かせたり、新しいライバルを出現させたり、場所ごと変えちゃったりとかね。
『砂の城』という作品を書いていたころなんて、女子そのものの世界観に飽きちゃって、「あー、たまには少年マンガのように、バトルしたりアクションしたりしたい!」と。それで生まれたのが『有閑倶楽部』なんです。食事でもそうでしょう。ケーキと塩昆布を交互に食べたくなるのが人間というものです(笑)」
“プライド”は文化の違いに影響する!?
作品には史緒と萌の「あなたにはプライドがないの?」「そんな役に立たないものは捨てました」という名台詞がある。作品タイトルにまでつけた「プライド」。それは文化にも影響するだろうか? 先生はこの問いにすかさず「します!」と答えた。
「プライドが影響するのは文化しかないんじゃないかな。日本には日本のプライドがあり、他国には他国なりのプライドがあり、それぞれのプライドがそれぞれの文化を豊かに作り出していくという意味です。
あと、自分で映画『プライド』を見て、これは何かに似ている……!と感じていたんですが、韓国映画に似ているんですよね。だからきっと韓国人の方は気に入ってくれると思う。韓国の皆さん、ぜひとも見てください!」
写真:徐 美姫
文章:堀 香織
「プライドが影響するのは文化しかないんじゃないかな。日本には日本のプライドがあり、他国には他国なりのプライドがあり、それぞれのプライドがそれぞれの文化を豊かに作り出していくという意味です。
あと、自分で映画『プライド』を見て、これは何かに似ている……!と感じていたんですが、韓国映画に似ているんですよね。だからきっと韓国人の方は気に入ってくれると思う。韓国の皆さん、ぜひとも見てください!」
写真:徐 美姫
文章:堀 香織

2009年1月17日(土)より
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13他全国ロードショー
[STORY]
今は亡き有名オペラ歌手の娘で、裕福な家に育った麻見史緒(ステファニー)。美貌と才能に恵まれた彼女だが、父親の会社の突然の倒産でオペラ歌手への道が断たれる。一方、貧しい家庭で、母娘2人きりで育った緑川萌(満島ひかり)も、オペラ歌手を夢見て、バイトに励んでいた。イタリア留学をかけ、神野隆(及川光博)のレコード会社・クイーンレコード主催のコンクールに2人は出場するが、萌に陥れられ、史緒は優勝を奪われる。その後、生計を立てるため、史緒は、同じ大学の蘭丸の母親・菜都子(高島礼子)が経営する銀座のクラブ「プリマドンナ」で、歌手として働き始める。しかし、同じ店で萌もホステスとして働くことになり……。
監督:金子修介(『デスノート』2部作、『神の左手 悪魔の右手』)
原作者:一条ゆかり(『プライド』で07年「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」受賞)
配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ+シナジー
映画HP:http://www.pride-movie.jp/
[info]
雑誌「コーラス」連載中の「プライド」
最新10巻 2009年1月19日発売(集英社)