マタギキ 遠山正道 氏(5/17)
4.どうしてこうなっちゃうの

私の著書の1番最初のフレーズに“ファーストフードや世の中の疑問からスープストックトーキョーは生まれました”とあります。本来、ファーストフードのファーストは「早い」という意味です。しかし、現在はお母さんが子どもに「ファーストフードばかり食べてるんじゃないわよ(怒)」のように、悪いモノの代名詞みたい扱われいます。本当は早いことと安いことの価値の意味は一緒ではないのです。これが1つにまとめられていることに疑問を感じました。
私は“20円安いモノより、200円高くてもいいから良いモノを食べたい”と考えています。世の中を見渡せば、赤や黄色の派手な装飾でいっぱいで……。僕だったらもっと美味しいモノを落ち着いた環境で出すのに……なんて妄想にふけっていた時、女性がスープを飲んでほっと一息ついているイメージが思い浮かんだのです。とても大事なモノに出会った感じがしました。それから3ヶ月かけて、スープストックトーキョーの企画書を書き上げました。
ケンタッキー社に提出したこの企画書は物語になっていて、全て過去形で書いてあります。僕にとってスープストックトーキョーの企画は絶対良いものだと自信がありましたし、必ず獲りたかったので、決定権を持つ経営層の方々に、想いやイメージをきちんと共有してもらった上で判断して欲しかったので、物語にしました。簡単に言うと“同じ風景を見て欲しかった”ということです。すれ違ったままにモヤモヤした中で失敗すると、とてもしゃくに障るじゃないですか。
この企画書には元ネタがあります。僕が三菱商事の情報産業グループ時代に、パソコン通信が始まりました。これはものすごい技術革命だと感じました。その時に、電子メールで変わる未来像を過去形で書いた企画書を作ったのが元ネタです。例えば「今の時代、終業後の麻雀をする仲間を集めようと思ったら、パソコンに向かって仕事をしている最中にメールを飛ばして20人ぐらいはすぐに集めることができるでしょう。メールの無い時代、内線電話でこそこそ集めていた時代が懐かしいです。」といった感じ。この企画書を色々な人に配ったら、巡り巡って当時の三菱商事の社長の目に止まり、プレゼンをすることになりました。僕の中では、これが三菱商事時代の唯一の成功体験だと思っています。このような取り組み方をうちの会社では“頼まれてもいない仕事”と呼んでいます(笑)。